【イベントレポート】CFOからCEOへ:そのキャリア転換のプレイブック
数字を知り尽くした参謀が、自ら経営のトップに立つ。これほど強力なリーダーはいない。しかし、CFO(最高財務責任者)からCEO(最高経営責任者)への道は決して地続きではない。参謀からトップへ、守りから攻めへ。その壁をどう乗り越えるべきか。
1,300名もの熱気で埋め尽くされた「会計ファイナンス人材カンファレンス 2026」。ひときわ大きな注目を集めた本セッションには、 CFOとしての修羅場をくぐり抜け、CEOへとキャリアを切り拓いてきたプロフェッショナルたちが集結した。
資格や専門性をゴールではなく経営を動かす武器に変え、日本経済を牽引するリーダーへ――。彼らの生々しい軌跡から、次世代の会計ファイナンス人材に求められる「キャリア転換のプレイブック」を紐解く。

(写真 左から)
〈Facilitator〉
◆ 丸尾 浩一 |株式会社Major7th 代表取締役
元大和証券専務。数々のIPOや上場企業のファイナンスを手掛けた投資銀行業務のプロフェッショナル。現在は起業家と大企業をつなぐ架け橋となる株式会社Major7thを創業。
〈Speaker〉
◆ 柴田 裕亮 |株式会社エアトリ 代表取締役社長 兼 CFO
公認会計士。監査法人でIPOやアドバイザリー業務に従事後、株式会社エアトリにCFOとして参画。2016年の上場を主導し、後に代表取締役社長兼CFOに就任。
◆ 千葉 知裕 |株式会社Macbee Planet 代表取締役社長
公認会計士。監査法人を経て、株式会社Macbee PlanetにCFOとして入社。1年半で上場を実現し、その後、代表取締役社長に就任。
◆ 山田 雄一郎 |株式会社トリプルアイズ 代表取締役会長
公認会計士。監査法人で監査、コンサルティング業務を経験後、株式会社トリプルアイズにCFOとして参画。創業者の急逝を受け社長に就任し、IPOを達成。現在は会長。
◆ 坂本 壽男 |CPAエクセレントパートナーズ株式会社 取締役CFO
公認会計士。事業会社の営業、監査法人を経て、株式会社串カツ田中のCFOとして上場を実現。その後、同社の代表取締役社長を経験し、現職。
なぜ彼らは会計士を目指したのか。資格をゴールではなく武器にした原点
公認会計士試験は、合格率7〜8%という狭き門である。ゆえに「会計士になれば安定した年収と社会的地位が得られる」と感じる合格者が一定数いるのも事実である。しかし、ファシリテーターの丸尾氏は「資格を取ったら勝ち組、大手監査法人に入ってパートナーになることがゴール」、資格を武器に企業のCEOなども目指すこともできるのに、そのようなマインドで監査法人に入っても大成しないのではないか」と、セッションの冒頭で問いを投げかけた。
登壇した4名の経営者たちにとって、会計士という資格は人生のゴールではなく、自らの人生を切り拓くための通過点に過ぎなかった。その出発点には、社会変革への問題意識、独立への強い憧れなど、それぞれの原点があった。
柴田氏は「もともとCEOを目指していたわけではなく、学者志望だった」と明かす。大学の経済学部に在籍していた当時を振り返り、「バブル崩壊後の世代として、停滞する日本経済をどう打破し、世の中を変えていくべきかという強い問題意識を持っていた。そう考えた際に見えてきた一つの選択肢が会計士だった」と語る。
千葉氏は学生時代から「地元に戻って経営をやりたい」という明確な意思を持っていた。「そのための強力で分かりやすい武器が会計士という資格でした。合格した瞬間も『勝った』ではなく『ようやく戦うための武器を手に入れた』という感覚でした 」と語る。
一方、「人に雇われたくない、面接で選ばれたくない」という直球の思いを明かしたのが山田氏だ。「経済界の警察や医師のような専門性に惹かれた」と語り、大学時代から難関資格への挑戦を決意した。
坂本も、新卒で働いた事業会社の営業をするなかで、一生サラリーマンでいたくないと感じた経験から、「税理士として親から家業を継ぐ友人が楽しそうに見えた。自分も親から子に継げるような独立した仕事がしたい」と考え、科目合格制で数年かかる税理士より短期間で合格を狙える会計士に狙いを定め、見事2年半で合格を果たした。
そんな彼らを待っていたのは、新たな競争の場だった。坂本は監査法人に入ったときの衝撃をこう語る。「監査法人に入ると当然ですが全員が合格者。より早く経験を積むために、がむしゃらに働くとともに、猛烈に読書する人がゴロゴロおり、熾烈な競争でした」
柴田氏は監査法人で自ら厳しい環境に飛び込み、早く出世することを望んだ。「大手監査法人のソルジャーが集まるといわれる部門で、がむしゃらに働く。クライアントも成長企業が多い。そういう環境に行きたいと思っていました」
会計士を目指すきっかけはそれぞれである。会計士になることは、ゴールではなく、目標とするキャリアを目指すためのスキルの一つであり、新たな競争のスタートラインに立つことである。彼らにとって会計士という資格は、通過点であり、今後の自らの人生を切り拓くための武器だったのである。
最大の理解者であり、最後のブレーキ役。CEOへの扉を開く「CFO」の条件
続いて議論は、CFOからCEOへのステップアップに必要な経験へと移った。
丸尾氏は「大企業では、経理や財務のエリートコースを歩んだサラリーマン(非会計士のことが多い)がCFOになることが多く、そのままCFOをゴールとしてキャリアを終えるケースが一般的といえるのではないか?しかし、スタートアップやオーナー企業におけるCFOは、CEOと一心同体となって企業価値を爆発させる存在であり、その先にCEOへの道が拓かれている」と、大企業CFOとの違いを提示した。
串カツ田中のCFOとして上場を主導し、後に社長に就任した坂本は、IPO準備のプロセスこそがCEOの土台になると語る。
「証券会社や東証から会社の隅々まで問いただされるため、最終的には社長以上に会社の実態に詳しくなる。さらに投資家を回るロードショーで創業者の熱い想いを30回も横で聴くうちに、ミッションやビジョンが細胞レベルで刷り込まれた」と明かす。

この会社の数字を通して全社の事業の実態を正しく把握し、IPOやM&Aなどを進め、幹部陣の信頼を積み重ねていく。その過程で創業者の想いを一身に受け止める。その一連の経験こそが、CFOを単なる管理責任者から、次期CEO候補へと押し上げるのである。
山田氏は、当時の創業者社長を「髪もじゃもじゃの熱量のあるエンジニア社長だった」と懐かしむ。「社長が技術に特化している分、全体を見渡すのが私の役割だった。そして社長の言葉が、最終判断である『ラストマンの言葉』になる。たとえ自分と少し意見が違ったとしても、決めた方針は全力で支え、一緒にやり切ることがCFOの務めだった」と振り返る。
この葛藤と伴走の経験こそが、経営トップとしての揺るぎない土台となっている。
ファシリテーターの丸尾氏も「最初から社長をやっていると、CFOの苦悩は分からないかもしれない。両方の立場が分かるのは大きな強みだ」と深く頷いた。
さらに、証券会社時代に何百社ものIPOを手掛けてきた視点から、上場準備におけるCFOの真の役割を次のように紐解く。
「IPOの際は、証券会社と最前線で向き合い、時に激しく対立するのは常にCFOです。彼らはある意味『通訳』のように、会社、証券会社、監査法人、取引所の間に入り、あらゆる調整を一身に担います。そのようなプロセスを経て、会社の全容を把握し、同時にCEOのビジョンも深く刷り込まれていくのです」

柴田氏は、前社長から代表就任を打診された際、最初は「いやいや」とかなり驚いたという。しかし、経営陣の役割分担等を踏まえたさまざまな選択肢を検討する中で、「ある意味消去法で、自分という選択肢なのかもしれない」と納得をして、覚悟を決めたリアルな経緯を明かした。
「CFOの仕事はサッカーのボランチのようなイメージで、主に管理面について、『あいつにボールを渡しておけばなんとかなる』というようなポジションです。その役割自体は(後任への)代えがきくと思っていました。一方で、オーナー創業者である大石会長とのコミュニケーションや経営陣全体のバランスを考えたとき、自分が代表に上がるのが理にかなっていると判断してお引き受けしたんです」

会社の中心で攻守のバランスを取り、あらゆるパスを捌き続けてきたボランチとしての圧倒的な信頼感。それがあったからこそ、「彼なら全体をコントロールできる」と評価され、CEOのバトンが託されたのである。
しかし、CEO、特に創業オーナーとの関係は、常に順風満帆ではない。時には、会社の未来のために「NO」を突きつける覚悟が求められる。
坂本は「創業者は強烈な人が多く、突飛なアイデアも飛び出す。その思いを形にすべく知恵を絞りつつも、会社の将来にとって良くないことは『やめるべきだ』と言えるCFOの存在が不可欠だ」と語る。
千葉氏もまた、CFOが背負うべき覚悟の深さを強調する。 「立場がCFOであれCEOであれ、常に『主語を会社』にしなければならない。自身の立場や評価ではなく『これが会社の未来を左右する』と感じた局面なら、相手が創業者であっても絶対に『NO』と言い切る。その腹を括れるかどうかがすべてだ」
オーナーのビジョンを誰よりも深く理解する伴走者でありながら、会社の危機には身を挺して止める最後のブレーキ役にもなる。そして、チーム全体のバランスを司るボランチとして機能する。この多面的な役割を全うして初めて、CFOはCEOへの扉を開くことができるのである。
IPO準備という「修羅場」が、経営者としての胆力を鍛える
CFOからCEOへの道筋において、IPO準備が重要なマイルストーンであることは間違いない。しかし、その道のりは決して平坦なものではなく、登壇者たちは壮絶な修羅場を経験してきた。
「上場準備の現場は、まさに怒涛のカオスでした」と振り返るのは坂本だ。
「参画した当初、管理部門は部長と私のわずか2人。月次決算すら締まっていない中で、2ヶ月後に株主総会が迫るような状況でした。メンバーを採用して体制を整えつつ、3カ年計画をほぼ1日で突貫作成したこともあります。修羅場の連続だった1年半ですが、監査法人で得た知識を形にするプロセスはやりがいがあり、最高に楽しかったですね」
千葉氏もまた、壮絶なIPO準備の現場を経験した一人だ。「『管理部が3人いれば上場できる』というよく言われる定説を信じて参画したものの、実際はIPOに関してあまり知見が豊富ではないメンバーと、私の3人。
「寝る間も惜しんで働き詰めても作業が終わらない極限状態でした。ですが、あのカオスを腹を括って最後までやり切った体験は、今振り返っても経営者としての圧倒的なタフさを養ってくれた原点だと感じています」と振り返る。

山田氏は、また別の形の困難を経験した。マーケット環境の悪化により、ロードショーを全て終えた最終日に上場できないという連絡を受けたのである。「1回申請を取り下げて、次の日程を決めるところは、暗闇の中に入ってまた光を探すような感覚で一番ハードでした。」と、当時の心境を吐露した。
柴田氏は、自身がジョインした時点で、 IPO準備がなかなか進まない困難な状況からスタートした。リソース面でキャパオーバーに陥り、「トーマツ時代の知り合い10人ぐらいに『助けてもらいたい』『誰か良い人間はいないか』とLINE等をした」というエピソードを披露する。その助けを求める連絡が、後の執行役員との出会いに繋がったという。
管理体制ゼロからの立ち上げ、不眠不休の書類作成、突然の上場延期、仲間へのSOS。彼らが経験した苦労は、まさに修羅場そのものである。
しかし、この極限状況を乗り越えた経験こそが、彼らの経営者としての胆力を鍛え上げた。どんな困難に直面しても会社を前に進めるという、強靭な精神力と実行力を身につけるための、不可欠な通過点だったのである。
これからCFO、そしてCEOを目指す会計ファイナンス人材へのメッセージ
セッションの最後に、登壇者たちは未来のリーダーたちへ熱いメッセージを送った。
坂本は、会計ファイナンス人材のなか、特に会計士試験合格を目指す受講生に向けて、「合格したら、目先の給料などでキャリアを選ぶのではなく、『人生の目標』や『何に一番自分が燃えるか』から逆算して選んだ方がいい」とアドバイスした。その軸があれば、受験勉強のような苦しい時期も乗り越えられると語った。
山田氏からは、AI事業を行っているからこそのメッセージが伝えられた。
「とにかく心を燃やして、燃え尽きてほしい」と情熱的に呼びかける。
「AIに代替されていくスピード感が激しすぎる今、人が動いたり燃えたりすることでしか生まれない価値がある」と、人間ならではの熱量の重要性を訴えた。

千葉氏は、自身の経験を振り返り、「Macbee Planetに入るとき、年収を300〜400万円下げてでも『見えない次のチャレンジをしたい』と決断したことが、人生を変えた」と語る。未来で何をやりたいのかを軸に判断することの大切さを伝えた。
そして柴田氏は、より大きな視点からメッセージを送った。
「とにかく、もう日本をなんとかしなくちゃいけない。この会場にいらっしゃる我々が、監査法人や事業会社の中で会計ファイナンス人材として活躍する。その積み重ねが、日本の成長につながっていくと信じています」
会計ファイナンス人材が創るべき新時代に向けて
本セッションでは、公認会計士からCFO、そしてCEOへとキャリアを広げてきた登壇者たちの経験をもとに、これからの会計ファイナンス人材に求められる役割や可能性について議論が交わされた。
議論を通じて浮かび上がったのは、会計士という資格や専門性は、キャリアの到達点ではなく、より大きな挑戦へ踏み出すための強力な武器であるということだ。自身が「何のために会計士になったのか」を問い直し、その専門性を社会や経済の発展にどう生かしていくのかを考え続ける姿勢が、キャリアを切り拓くうえで重要であることが示された。
また、CFOには、オーナーや経営者のビジョンを深く理解し、伴走する姿勢が求められる。一方で、単なる賛同者にとどまるのではなく、会社の未来を見据え、必要な場面では厳しい意見を伝える役割も担う。こうした信頼関係の積み重ねが、経営の中核を担う存在へと成長していく土台になることが語られた。
さらに、IPO準備やM&A、組織の立ち上げ、予期せぬトラブルへの対応といった経験は、会計ファイナンス人材が経営者としての視座や胆力を養う重要な機会となる。困難な局面に向き合い、意思決定を重ねることで、次のステージへ進むための力が培われていくことが印象的であった。
会計ファイナンス人材の新時代は、誰かが用意するものではなく、専門性を持つ一人ひとりが自ら切り拓いていくものである。専門家としてのポテンシャルを最大限に発揮し、日本、そして世界を舞台に活躍する経営者がこの場から生まれていくことへの期待を感じさせながら、本セッションは締めくくられた。
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