【イベントレポート】若手が考える会計士キャリアの可能性とは
会計士資格という確固たる武器を手にした先、キャリアの可能性をどう描くか? 「キャリア」という言葉は希望であると同時に、時に私たちを縛る鎖にもなりうる。本能で飛び込むべきか、戦略的に進むべきか。専門性を磨くべきか、組織を率いるべきか。多くの若手会計士が抱えるこの問いに、第一線で活躍する4人の登壇者が鋭く切り込む。
本稿では、2026年7月5日に開催された「会計ファイナンス人材カンファレンス2026」のセッション『若手が考える会計士キャリアの可能性とは』の模様をレポート。監査法人の枠を飛び出し、スタートアップ、コンサルティング、独立など多様な道を選んだ登壇者たちの議論から、これからの時代を生き抜くためのキャリア構築のヒントを探っていく。

〈Facilitator〉
古作 祐真|CPAエクセレントパートナーズ株式会社 コミュニティ推進部 企画責任者
公認会計士。あずさ監査法人から世界60カ国を旅するバックパッカーへ転身し、現在は日本一の会計ファイナンスコミュニティ創出を目指す。
〈Speaker〉
石川 桂太|株式会社SANU 執行役員 2nd Home事業統括本部長
会計士試験合格後、インドの会計事務所でのインターンを経て、野村総研インド法人へ。その後、スタートアップ「エアークローゼット」に創業期から参画し、IPOと黒字化を実現。現在は「自然とともに生きる」をテーマにした事業を率いる。
黒石 美美|株式会社MW コーポレート
公認会計士。監査法人に3年半勤務後、ロボットとAIを駆使した住宅開発を手がけるスタートアップ「MW(ムー)」へ転職。社員30名規模の組織で、経理・労務・法務などコーポレート業務全般を一人で担う。登録者約1.1万人のYouTubeチャンネル「公認会計士みみ」も運営。
鹿谷 紘史|TRIVY株式会社 代表取締役
公認会計士。慶應義塾大学アメフト部出身。デロイトトーマツ、税理士法人を経て独立。現在は医師や弁護士とチームを組み、全国の病院の経営改革やM&Aを手がける。300人規模の「会計士運動会」を主催するなど、業界のハブとしても活躍。
髙木 駿|税理士法人タクトコンサルティング 部長
公認会計士。プロ野球選手を目指した元アスリート。トーマツでIPO支援を5年半経験後、資産税に特化したタクトコンサルティングへ。不動産・事業オーナーの相続・事業承継対策を専門とし、一族の課題解決を担う。
本能型か、戦略型か? キャリア選択の分岐点
「本能型か、戦略型か」
セッションは、ファシリテーターの古作が会場の参加者に問いかける形でスタートした。
キャリアの岐路に立ったとき、私たちは何を頼りに道を選ぶべきか? 会場投票の結果はほぼ半々に割れ、このテーマの難しさを浮き彫りにした。
最初に発言を求められた髙木氏は、自身を「実は戦略的なタイプ」だと分析する。彼は転職を決意した28歳のとき、徹底的に自己分析を行ったと言う。
「学生時代、野球でも勉強でも一番になれず、『器用貧乏』であることがコンプレックスでした。しかし社会に出てみると、コミュニケーション能力や問題解決能力といった総合力が武器になることに気づいたのです。すべてで100点を目指すのではなく、80点を取っていけばいいのではないかと思いました」
その上で、自身の実家は江戸時代から続く地主家系で不動産賃貸業を営んでいたり、不動産賃貸業に関わりがあり、事業承継に課題を持つ友人がいたことから、「不動産・相続・事業承継」の分野に専門性の軸を置けば勝てると判断。スペシャリストとしての軸足を定めつつ、周辺領域の知識を持つジェネラリストとして動くという戦略を描いたのだ。

鹿谷氏も「私は見た目通り戦略型」と語った。
挫折続きの経験から、本能だけで挑むのではなく「戦略を練ってやるしかない」と考えるようになったという。何を始めるにもまず業界を見極め、次にチームを見て「勝てるか否か」を判断し、そこに力を注いできたのである。
「判断を誤ることもあるが、うまくいくことも多くある」。その積み重ねが現在の自分を形づくってきたという。
就職活動でも、慶應体育会出身の就職の強さを意識しつつも、「僕みたいな人がいっぱいいる」と感じた広告業界を避け、父の影響や数字への適性も踏まえ、会計士資格を取る道を選んだ。
一方、黒石氏は「見た目通り本能型」と断言する。彼女にとって会計士資格は、人生を自由に生きるための「セーフティーネット」という。
「会計士の資格があれば、最低限食いっぱぐれることはない。女性特有のライフイベントでキャリアを中断しても、いつでも戻れる安心感があります。このセーフティーネットを手に入れたからこそ、あとは本能に従って、好きなことをやりたいようにやるぞって思いました」
黒石氏が現在のスタートアップを選んだのも、「美しい建築が好き」「大きくてかっこいい家を作りたい」という純粋な想いから。ワクワクする気持ちが、彼女のキャリアを突き動かす原動力となっている。
最後に話が回ってきた石川氏は、王道のキャリアを進むことにこそ不安を感じ、「少しずらしてアウトローで勝つ」という発想で道を選んできたという。会計士試験合格後も、東大・マッキンゼー級の猛者たちと同じ土俵で戦うより、自分の特徴が出せる場所を探し、縁をきっかけにインドへ飛び込んだ。
インドで働く中では、会計士としての適性への違和感や、グローバルに戦う難しさにも直面した。それでも「グローバルに戦える人材になりたい」という思いから、事業サイドへ進むため野村総研インド法人に移り、さらに日本のスタートアップへと挑戦の場を移していった。
一見すると本能的に飛び込んでいるようで、石川氏は、「挫折のたびに立ち止まり、結果として最もワクワクする道を選び直してきたことが、自身のキャリアの軸」と語った。

専門型か、組織型か? 成果を最大化するスタイル
続いて、2つめのテーマをファシリテーターの古作から、再度、会場の参加者に問いかけた。
「仕事で大きな成果を出すうえで、自分の専門性で勝負する専門型か、人に任せて組織で成果を出す組織型か、皆さんはどちらのタイプか」

会計士のキャリアは、会計や監査の専門性を突き詰める「専門型」が王道とされがちだ。しかし、人に任せ、チームで事を成す「組織型」の道もある。この問いに対する会場の投票は、ここでもほぼ半々という結果になった。
「自分の力だけでは戦えない」。そう語るのは、大学アメフト部出身の鹿谷氏だ。彼は、監査や税務は得意ではないと自己評価した上で、組織で戦う道を選んだ。
「主催する会計士運動会も、各監査法人の若手20〜30人で企画運営しています。僕一人では細かい準備もできないし、人も集められない。でも、チームでやれば補い合える。本業の医療経営支援でも、医師、弁護士、会計士、税理士から成る優秀なチームがあるからこそ、大きな仕事ができるんです」

石川氏もまた、若くして組織で戦うことを決意した一人。野村総研インド法人時代、周囲のコンサルタントの圧倒的な「切れ味」を目の当たりにし、プレイヤーとしての限界を感じたと言う。
「クライアントの社長に『コンサル向いてないんですよね』と相談したら、『君が40代、50代になったとき、その頭の切れ味が本当に重要なのか』と問われました。その社長は会議でほとんど喋らないのに、周りの役員が有機的に動いていた。それを見て、人に任せて成果を出す道があるんだと気づかされました」
24歳でマネジメントの道に進むと決めた彼は、若いうちからマネジメントを学び、スタートアップに飛び込み、組織を率いてIPOを成し遂げることになる。
一方で髙木氏は、両方の側面を併せ持つハイブリッドなスタイルを提示する。彼の仕事は、数十億から数百億円規模の資産家のファミリーコンサルティング。そこでは「自分自身が商品」だと語った。
「クライアントとのフロント業務は基本的に一人で行います。商品開発(知識のアップデート)、プロデュース、営業まで全て自分です。しかし、不動産、金融、保険、法務といった専門分野では、社内外のプロフェッショナルとチームを組んで戦う。個の力と組織の力を両輪で回すことが不可欠です」
安定をどう手放すか? 次のステージへ進むための覚悟
セッションの後半で、議論は現状をどう打破していくかというテーマに移った。
キャリアのステップアップには、現状のコンフォートゾーンともいえる「安定」を手放す瞬間が不可欠だ。しかし、その一歩をどう踏み出せばいいのだろうか?
会場の参加者の回答では、「お金を貯めてから動きたい」という回答が多い中、黒石氏は、安定や貯金、リスクが低いことへの挑戦を「嫌い」だと表現した。
「安定だなって思った瞬間に、興味を失うタイプ」だという彼女は、家を買い、貯金がほとんどない状態で転職。なけなしのお金を自分にフルベットしてきたと明かす。
「目先の数百万より、日本の住宅環境にイノベーションを起こす、大きいことに挑戦するワクワクのほうが大事。これが成功すれば、人類にとって大きなインパクトを与えられる。その可能性に賭けています」。

石川氏は、そもそも「安定を得たことがない」と語り、キャリアを通じて「捨てる力」を意識的に養ってきたと強調する。
「公認会計士という資格を持っていないし、日本のキャリアも捨ててインドに行き、インドのキャリアを捨ててスタートアップに移った。何かを築いてしまうと、チャレンジしにくくなる。だから、捨てる練習をしてきました。捨てるからこそ、やるしかない、という状況が自分を強くするんです」
この「捨てる」というマインドについて、髙木氏は「覚悟」という言葉で補足した。
「僕が言う覚悟も、何かを捨てる覚悟です。転職当初、年収は300万円下がりましたが、将来的な伸び率に賭けました。その代わり、子育ての時間を削り、毎日4〜5時間勉強した。飛び込んだからには、自分の選択を正解にするんだという覚悟。どれだけのものを捨てて、それにフルベットできるかが勝負です」
鹿谷氏は、「安定」という言葉の定義を自分の中で明確にすることが重要だと説く。
「安定という言葉は抽象的すぎます。公認会計士試験に合格することや公認会計士の資格をとることがゴールなのか、貯金500万円がゴールなのか。自分の中で『ここまでやれば安定だ』という基準を決めれば、次の挑戦への一歩が踏み出しやすくなるのではないでしょうか」
自分なりのゴールを設定し、それを目指して挑戦する。その過程でゴールや目指すキャリアを常に更新して高みを目指していくことが本質であると示唆された。
キャリアは「自分の中」にある! 取り組むべき3つのアクション
今回のセッションを通じて見えてきたのは、会計士のキャリアに唯一絶対の正解はない、ということだ。本能型か戦略型か、専門型か組織型か。その選択は、個々の価値観や特性に深く根ざしている。
登壇者たちの言葉から、3つの実践的なアクションを提示する。
- 自分の「型」を知る
自分が本能型と戦略型のどちらで意思決定するタイプなのかを自己分析する。どちらが優れているということではなく、自分の特性に合った戦い方を選ぶことが重要。 - 「セーフティーネット」を再定義する
会計士資格という強力なセーフティーネットを、守りではなく「攻め」のために活用する。それは、リスクを取って挑戦するための「安心の土台」となり得る。 - 「捨てる覚悟」を持つ
次のステージに進むためには、現在の地位、収入、時間など、何かを「捨てる」覚悟が求められる。何を捨て、何にフルベットするのか。その選択が、未来のキャリアを形作る。
最後に、印象的だったのが鹿谷氏の「キャリアという言葉は危ない。目的と手段が混同されがちだ」という指摘は、本質を突いている。キャリアとは、より幸せな人生を送るための手段の一つに過ぎないのだ。
「人と会い、本を読み、旅をする。様々な感情の総量を増やすことが、人生の幸福度を決める」
この言葉は、日々の業務に追われる私たちに、キャリアを考える上での原点を思い出させてくれる。このセッションが、読者にとって自らのキャリアを見つめ直す、良いきっかけとなることを願う。
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