公開日:2024/11/19
管理会計ラボ株式会社 梅澤 真由美
Q:監査法人を辞めて初めての転職をされたときのきっかけや心境を教えてください。
トーマツで4年間、国内監査業務を経験した後、より実践的に自分の手を動かしたいと思い、組織内会計士に転じました。お客さまと信頼関係を築く面白さがある一方で、監査という仕事の特性上、一定の距離を保つことにもどかしさを感じていました。また体力・時間的な面も考えて初めての転職に踏み出しました。
Q:転職先を選んだ理由や事業会社でどんな業務をされてきたのか教えてください。
2社目のマクドナルドには、思いがけないご縁で内部監査室長と出会い、自分がCIA(公認内部監査人)の資格を持っていたことがきっかけで入社することになりました。
しかし、内部監査がやりたくて入社したにも関わらず、2ヶ月でJ-SOXのプロジェクトに特化することになりました。最初は戸惑いがありましたが、最終的には、事業会社の中で働くことの楽しさを感じるようになりました。そして、より深く事業に関わりたいと思い、経理兼予算管理のリーダーになりました。
経理業務に初めて触れたのですが、J-SOXの経験から会社全体の経理フローは大体把握していたので、おおよそ1年で経理業務の大枠は理解することができました。その一方で、会計システムの使い方については、周りのメンバーに教わりながらキャッチアップしましたが、結構苦労しました。
Q:事業会社から事業会社へ転職をされた際の心境の変化や業務の変化を教えてください。
もともとディズニーが大好きだったので、ディズニー関連の求人は常に注目していました。マクドナルドで管理会計に関わりはじめて数年後、制度会計以上に管理会計を重視する外資系企業に興味を持つようになりました。タイミング良く「小売経験のある方歓迎」というウォルト・ディズニー・ジャパンの小売部門の求人を見つけ、応募しました。これまでの経験が評価され、また「ニューヨークでディズニーストアの新店舗を見ました」という話が経営陣に好評だったこともあり、運良くウォルト・ディズニー・ジャパンに入社しました。
入社後は、アジア地域のディズニーストア部門のファイナンスマネージャーとして、予算や中期経営計画など定量から定性面まで一手に担いました。具体的な業務としては、予算管理、経営企画、プロジェクトマネジメントに加えて、PLの経理も含まれます。外資系企業では経理をBS(アカウンティング)とPL(ファイナンス)で分ける場合もあり、その面ではもちろん会計士の知識と経理の経験が大いに生きました。ファイナンス部署は経営者の右腕的なポジションとされており、経営陣のプレゼン資料作成や本国のディズニー向けのレポート作成も行うなど、とてもやりがいのあるものでした。
Q:事業会社に入って「監査法人で経験していて良かった」と感じたことはありますか?
上場準備(IPO)監査や小売業のクライアントなど、監査法人時代は幅広く経験を積むことができました。思えば、その後の転職先の事業会社や社外役員としてかかわる事業会社では、クライアントを通じて間接的に身につけた知識や経験が生きる場合も多く、キャリアとしてつながっていると強く感じています。
例えば、トーマツは積極性を重視する社風なので「〇〇をやりたい人はいますか?」といった声掛けが頻繁に行われていました。そこで、IPOの経験者を募集していた上司に「未経験だけどやりたい!」と手を挙げたところ意欲を買ってくれ、IPOを経験することができました。この経験は、社外役員としてIPOを達成するときはもちろん役に立ちましたし、現在の人脈にもつながっています。
このように、経験したい業種や業務を数多く担当させてもらったトーマツには本当に感謝しています。
また、監査法人時代に身につけたキーパーソンの見抜き方は大きな財産です。中でも「場の決定権を持つのは誰か」を見抜く力は、とても役立っています。肩書きでは分からないことも多いので、「これは誰に聞けばいいのか」「聞くべき相手と今目の前にいる担当者の関係はどうか」といったことを気にかけながらクライアントと接していた経験が、事業会社時代も独立してからも役立っていると感じます。
実務以外では、トーマツ時代に英語の勉強を続けたおかげで、TOEICの点数が高かったこともキャリアにプラスに働きました。その結果、マクドナルドやウォルト・ディズニー・ジャパンのような外資系企業に入社できたのだと思います。
Q:事業会社で働く最大の魅力は何だと思いますか?
一つ目は、色々な情報を見聞きできることです。戦略から戦術まで舞台裏を知ることができ、さらにはその世界をつくることに関われるのは、ファンとしてはこの上ない経験でした。マクドナルドもディズニーも文化と信念に支えられており、内側から見ても本当にすばらしい会社だったと今も思います。
二つ目は、自分の手で物事を動かすことができることです。監査法人時代に感じていたジレンマの話を先ほどしましたが、当事者として物事を改善したり形にしたりという喜びは大きいものでした。
Q:監査法人の次のキャリアに迷っている会計士にメッセージを送るなら?
監査法人の外に出るか迷っているときは、自分をとりまく状況を客観的に把握することが大事だと思います。例えば、転職に失敗したらどうしようと思うのであれば、監査法人に戻った場合の給与や役職について、エージェントや先輩などに確認してみてはどうでしょうか。私の知る限りでは、監査法人をいったん出ても戻る方は多いようです。このように、会計士は他の仕事に比べてやり直しがしやすい職業だと思いますので、あまり心配しすぎずに自分の強みにあった仕事を見つけることに挑戦してみるのもいいのではないかと思います。
ただ、覚えておいてほしいのは、監査法人ならではの利点もあるということです。例えば、周囲とは会計用語を含む言葉は通じやすいですし、またグローバルも含む規模の大きな仕事ができるのは監査法人ならではです。独立して8年経ちますが、個人としては受注が難しい種類の仕事もやはりあり、監査法人のすばらしさを改めて実感しています。監査法人だからできる仕事も存在することは、理解しておくべきでしょう。
私は毎年、1年ごとに今の仕事を続けるかどうか、自分に問いかける時間を意識的に設けています。住んでいる賃貸物件の更新時期が来たら皆さん引っ越すかどうか考えると思いますが、それと同じです。今の仕事を続けるかどうかを、判断するタイミングを自主的に設定しているのです。変化を起こすのはやはり大変なので、強制的にでも考えないと、ズルズル続けてしまうことがあるからです。学生時代は進級など自然と節目が訪れますが、大人になると、自分で自分の人生を区切っていく必要があると感じています。
Q:女性会計士という立場から、後輩の皆さんに伝えたいメッセージはありますか?
この資格を持っていると、男女差にあまり影響されず、その人自身の能力が評価される傾向は強いと感じます。その一方で、女性という理由で時間的な制約が生じるタイミングもあるかもしれません。自分の経験から、そのようなときには自分の強みを発揮できる領域に特化することが大事ではないかと思います。そして、「自分は何ができるのか」「どうしたら価値を理解してもらえるのか」を常に考え続けることが必要です。
私自身は、社会的に評価されることよりも、自分が興味を持つことの方が、楽しく取り組むことができる性格です。そのため、自分の「心がときめく」分野を選び、そこで貢献することを大事にしてきました。どんなことでも一度やってみることは大事だと思いますが、自分の「魅かれるリスト」と「魅かれないリスト」を持っていることで、人生の選択の際の指針になると思います。
社外監査役や社外取締役としてこれまで5社ほど関わらせていただいていますが、自分が理解できて、ユーザーとして大好きなビジネスに関わることを心がけています。
皆さんご存知のとおり、どんな会社にも会計は必要ですから、諦めなければ必ずご縁があるはずです。そう考えれば、どの会社とも、会計士としていつか何らかの関わりが持てるかもしれないと思えるのではないでしょうか。面白そうと思ったことに気軽に飛び込むことで、気の合う方とつながり、縁が広がっていきます。フットワークの軽さと好奇心が、今の私をつくってくれたと思います。
Q:仕事とプライベートそれぞれ目標や夢を教えてください!
この2、3年でこれをやれたら幸せだろうな…と思うのは、「自分の書籍のドラマ化」「大学で教鞭をとること」「海外企業で役員をやること」の3つです。私はどんなことでも一度は挑戦してみたい性格なので、その場の景色をぜひ見てみたいのです。
この記事を書いた人
「人と繋がり、可能性を広げる場」CPASSを運営するスタッフ達です。CPASSメンバーは、20~40代まで幅広い年齢層の公認会計士達を中心に、キャリア支援のプロフェッショナルなど様々なバックグランドを持つメンバー達で構成されています。「絶対に会計人達の役に立つ情報発信する」、「CPASSにしか出せない価値を提供する」をミッションとして集まった熱いメンバー達です。CPASS独自の視点からの見解を是非、楽しんでください。