公開日:2024/07/03
有限会社アール 平林亮子
1.四半世紀以上のキャリアを振り返って①(会計士受験生/監査法人/独立)
私が大学に入学したタイミングというのが、いわゆる「失われた30年」に突入した時期と重なっており、大学の新入生ガイダンスでは皆さんは非常に就職に苦労すると思って大学生活を過ごしてくださいと告げられました。そのような時代に経済面で他人を頼るのも難しいだろう…と早い時期から将来に不安を抱えていました。私はもともと専業主婦志望だったのですが、日本経済の将来が明るくない中、結婚すれば安泰というのも今後保証されているわけではなく玉の輿にのるのも難しいことを悟りました。
(私が中学生の頃は女子高生ブームが起きて、女子高生になったら女子大生ブームが起きて今度は自分たちにスポットライトがあたると思っていたのに(笑))
それなら”自分で稼ぐ”のが手っ取り早いと考え、一番確実な手段として真っ先に思い浮かんだのが「資格」でした。大学の生協に置いてあるパンフレットから、とにかく稼げる資格はないかと探したところ、監査法人の初任給は当時でも「年収500万相当」という記載があり、この資格を手に入れれば一応食いっぱぐれることなく生きていけるのではないかと思い目指し始めました。大学の学部は文教育学部で、会計士を目指す仲間も周りにおらず、友人から「会計士はどんな仕事をするの?」と聞かれても、正直上手く説明できた記憶はないのですが、とにかく初任給で500万もらえるということが勉強の原動力になっていました。今となって振り返ってみると、ある意味安易な考えですが、この決断が人生を大きく変えてくれました。
会計士試験には大学3年生で合格しました。当時は合格率も1桁(%)の時代で、さらに、女性で大学3年次合格も3人で、「女子大生会計士」というありがたいブランドを頂いたなと思いました(笑)ただ、上述した通り、キャリアウーマンを目指して会計士試験に臨んだわけではなく、会計士としてピカピカのエリート街道を歩みたいとは思っていませんでした。やる気も体力もないので、大学生で補習所に通っていた時に、既に監査法人で勤務している補習所同期をありとあらゆる角度から観察して、どの監査法人なら比較的平和に生きていけそうかという目線で入所する監査法人を絞りました。
新卒で大手監査法人に入所するも、朝決まった時間に起きることや時間を守ることが全部本当に苦手でして、サラリーマン生活を続けることが苦しく、色々重なり2年で病んでしまったこともあり、2000年、当時25歳のタイミングで独立開業します。最初の仕事は専門学校時代の友人経由で頂き、それ以降は過去の実績ベースで色々お声かけ頂くようになりました。また、同年に結婚して実家を出ます。20代の時に、どうしても叶えたい夢が2つあり、1つが25歳で結婚すること、もう1つが本を出版することだったのですが、まず最初のミッションは達成する事ができました。余談ですが、私はとにかく実家が苦手で、結婚によって合法的に、かつ祝福されながら自由の身を手に入れることができて本当に嬉しかったですね。
2.四半世紀以上のキャリアを振り返って②(メディア出演/社外役員)
2003年、28歳の時にもう1つの夢であった「20代で(自費出版ではない形で)本を出版すること」を叶える事ができました。『面接の達人』の著者である中谷彰宏先生が20代で初めて本を書いたと知り、20代でも本を出版できるのか…と思ったのが、その夢を持ったきっかけでした。今振り返ると若気の至りとは恐ろしいと感じますが(!)、行く先々で「20代で本を書きたい!」と言っていたところ、出版関係の人と繋げて頂く機会を得ました。
当時は、名前も知られていない女性会計士(しかも20代で会計士としての実績もない)ということで相手にされないことは想像に容易かったので、どうしたら出版社の人に本気かどうか伝わるだろうかという視点に立ち、1冊分の原稿を書き上げたうえで出版社との顔合わせに臨みました。熱意が伝わったのか、当初持ち込んだ原稿は売り物にならないからとその場で捨てられて1から書き直しとなったものの、最終的に『マドンナ会計士が教える一番かんたんな会計の本』というキャラクターの会話形式で会計初学者向けの本を出版することができました。(キャラクターの原案も自分で書いたので今は怖くて読み返せませんが笑)幸運なことに1冊目を出版した後は、継続的にオファーを頂いており15年間で改訂版も含めると60冊近く出版していると思います。1冊目の著作を出版した頃から、メディアに出演する機会も少しずつ増えてはいましたが、2011年以降、テレビのコメンテーターやラジオの冠番組等メディア露出がより増えていきました。
2016年、40歳前後のタイミングで、突然ある人材エージェントから「社外役員に興味はないか」という問い合わせが届きました。”絶対に怪しい”と思ったものの、とりあえず話だけ聞いて決めようと思って会うことになりました。正直、私に声をかけてくるエージェントなんて胡散臭いと思いましたが、驚いたことに、そのエージェントは素晴らしい人格者でした。私自身これまでメディア露出が多かったこともあり、業界内では名が知られている方という自負はありましたが、あくまで亜流で知られているのであり、会計士として飛びぬけた専門知識があるわけではなく、本当に力になれるのかという不安も含めざっくばらんに相談することができました。社長面談の末、お引き受けすることになり、その会社も私に任せてくれるとは度量が大きいと思いましたが、最終的には、最近2期8年の任期を満了することができ安堵しております。振り返ると、25歳で独立して以降、そもそも上場企業にもほぼ関わってこなかったのに、突然社外監査役としてプライム企業に関わるようになることもあり、人生って面白いなと思います。
後に、2018年に女性士業を中心とした人材紹介を行う株式会社Lumiereを設立するのですが、この時のエージェントとの出会いにも少なからず影響を受けていると思います。正直、エージェント業務は人の紹介だけをして商売をしているというイメージで良い印象を抱いていなかったのですが、私が出会ったエージェントが会社にも候補者にも親身に寄り添っていたことに感銘を受けたのと、Lumiere代表の角田も社外役員を務めていることもあり、会社目線/候補者目線どちらの観点も持ちあわせている、という点で役立てることがあるだろうという想いで運営しています。
3.四半世紀以上のキャリアを振り返って③(茶人/シンガーソングライター)
2016年に、出資している会社から相談を頂いてお抹茶カフェをプロデュースしました。現在は月1回のペースで銀座でビルの1室を間借りし自ら店頭に立っています。2017年からシンガーソングライターとしてCDをリリースする等、いち会計士としては少々変わった経験もしています。茶道はカルチャー教室の一般講座に数回通った程度ですし、音楽活動については音大などを出たわけでもなくバンドを組んだこともないままのデビューでした。
お抹茶カフェは、抹茶と和菓子を嗜む贅沢な時間は大人の特権だろうと思っていたところ、出資先の会社が営む銀座の日本料理店で昼間の時間の使い方を悩んでいると聞き”これ幸い!”と追加費用をなるべく抑えられる形で提案し実現したものになります。当初のお店は閉店しましたが、別のビルで間借りさせて頂けることになり、そこでは私が店頭に立って着物好きな母と二人三脚で続けています。シンガーソングライターを始めたのは、メディア露出が多くなった頃に芸能事務所に所属することになったのですが、その芸能事務所の得意分野が音楽プロデュースだったことに加え、「死ぬまでにCDを1枚出したい」という気持もあったので、それまでに作ったデモテープを芸能事務所の社長に聞かせたところ実現してしまった、という感じです。これまで数枚リリースしている状況で、カラオケにも入っていますので皆さんぜひ歌ってみてくださいね!!
会計士試験合格後、四半世紀の人生を振り返ると、やりたいことを何でも実現させてきたように見えるかもしれませんが、それは誤解です。そもそもやりたい事があまりなく、なんとなく直感的に過ごしている中で、「20代で本を出版する!」のように思いの強いものが実現したという感じです。
人生なんて例えば100本新規事業を思いついたら、その中で1本でも実現すればラッキーだと思います。思い通りにならなくて当たり前。一方で、実際の人生は、ある意味、”思い通り“を遥かに上回る想像以上のものだなあ、と思っています。1冊の本を出したいという願いは60冊になり、上場企業に勤めたこともないのに社外役員になっていますからね。ちなみに、思いつきレベルの望みのようなものを軽々しく口にしてしまうこともあるので、長い付き合いのある人の中にはやりきる力があると認めて下さる方もいますが、短期的なフェーズでしか付き合いの無かった人からは、日々やりたいことが変わり何も実現していないと思われているかもしれません。
人生に多くを求めていないので何事にもやりがいは要らないと思っていますし、無理しないとできないことはやらないのでご褒美も特に意識した事はないです。「ああなったら楽しそう!」といった図々しい妄想はたくさんしますが、他方で、その妄想が達成できてもできなくても期待ギャップで不機嫌になることはないです。そもそも妄想の出来事でもリアルの出来事でもどちらでも感覚的に大差ないですし。。リアリストと妄想家の相反する2つの人格が共存している、そう指摘されればそうなのかもしれませんね。
何かの本で読んで納得したのが、運が良い人というのは「棚から牡丹餅」の棚の下にいるのが上手いという表現です。世の中、意外と落ちている牡丹餅を拾いにいかない人は多いと感じます。中には拾ってはいけないものもあるかもしれませんが、私の場合は、ある意味節制なく拾ってみた結果、今の状況があるのだと思います。
4.次世代の女性会計人材に向けたメッセージ
統計をとったわけではありませんが、男性に比べて、女性の方が人生の色々な壁にぶつかるかもしれないですけれど、色々なことを思い込みすぎないで良いのではないでしょうか。例えば、ずっと仕事を続けようという決意も別に要らないし、かといってそうしないって決意も要らないと思うんですね。で、それが変わっても良いと思います。私は飽きっぽいですし人生の軸もブレブレですけれど、そういう風に軸がぶれてもいいし逆にがっつり軸を持っていてもいいし、もっともっと気楽でいいんではないかなと、この歳になって思いますね。
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