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公開日:2025/02/14

  • 起業家

美辺株式会社/美辺香澄

  • #30代
  • #3児の母
  • #同志社大学出身
  • #愛知県出身
CAREER HISTORY

    Q:第1子出産後、2016年に保育事業を行う美辺株式会社を設立するまでの経緯を教えてください!

    「美辺(みなべ)」という苗字が極めて珍しく全国的にも親族しかいない、ということを幼少期に親から聞き、何とかして美辺姓を残せないかと思っていたところ、テレビで流れてくるCMを見て、”美辺”という会社を設立し、事業を継続させていけば姓を守ることができるのではないか、というアイデアを幼心に思いついてから起業を意識し始めました。

    会計士を目指したのも、起業に有利な資格として父から勧められたことがきっかけです。大学在学中に合格し、PwCあらた監査法人(現 PwC Japan有限責任監査法人)の名古屋事務所に入所しました。その後、同じチームの同僚と社内結婚し、将来的なライフイベントも考慮し、監査の仕事は大好きだったものの、私が身を引く形で退職しました。退職後しばらくは結婚式の準備や妊娠・出産・子育てで忙しく、幼い頃からの夢であった起業の本格的な準備には手をつけられてはいませんでした。そんな中、出産後、監査法人に非常勤として復帰することになったのですが、夫は単身赴任中で両親も仕事があり周囲のサポートが難しい状況だったこともあり、非常勤の仕事を引き受ける際は託児所に頼らざるを得ない状況でした。私が理想としていたのは週5日フルタイムでの勤務ではなく、週2〜3日で働き、仕事と育児をバランス良く両立させることでした。そのため、利用する保育サービスも一時預かりや認可保育のリフレッシュ保育、民間託児所を併用していたのですが、預ける場所によって持ち物が違う、サービスの質にムラがある、予約管理が大変等様々な課題があり苦労しました

    ”理想とする保育環境がない”という課題に対して何かできないかと思い、夫が単身赴任から帰ってきて、余裕が出たタイミングで託児所の事業計画を書き始めたのですが、融資が決まったことから、もうやるしかないと覚悟を決め、2016年2月に美辺株式会社を設立、同年4月に「一時お預かり専用託児所 はないと®」を開園しました。事業計画の策定から開園までは半年間で、かなり急ピッチで進めましたが、今振り返ってもよくやり切ったな、このスピード感はもう二度とできないだろうと思います。9期目に入った現在、スタッフも50名を超え、そのほとんどが女性です。私たちの1番のこだわりは、一時預かりであっても妥協をしない保育環境ですが、当社のスタッフの多くが保育サービスを受けている、受けてきた当事者であり、当事者として感じるお母さんの気持ちを大切に、親戚関係のようなコミュニティであることを大切にしています。

    Q:起業時に保育事業以外の選択肢も考えられていましたか?また、事業内容を決定する際に意識されていたことがあれば教えてください!

    当初から何らかの事業で起業をすることは決めていたので、保育園事業に限らず、他の事業も考えていました。例えば、監査法人を辞めた直後は、東京でオリンピックが開催されることが決定していたこともあり、外国人観光客向けのウェブサービスに関する事業計画やプレゼン資料を用意していました。ところが、私自身が利用者ではないので、外国人観光客の真のニーズについて理解しきれておらず、投資家や経営者から指摘を受けた時に打ち返せなかったり、私自身はエンジニアではないためサービスを外注しないといけないのでマネタイズが難しいという課題がありお蔵入りになった経緯があります。

    他方、保育事業に関しては未経験の分野ではあるものの、利用者だったのでニーズは的確に把握できている自信はあり、理想とする託児所像もプレゼンを積み重ねるごとにブラッシュアップされていき、銀行の融資も通りました。今も10歳・5歳・1歳の母として、また、私だけでなく、共に働くスタッフのほとんども母であることから、それぞれの世代の親の気持ちを深く理解し、課題を認識していることが事業にもプラスになっていると思っています。

    (↓)運営する「はないと」で提供している給食。私自身”食”へのこだわりが強いため、管理栄養士によるバランスの取れた献立と専属の調理スタッフが自園調理する安全・安心なおいしい給食を提供しています!

    Q:現在は、社長として、どのような業務をメインで担当されていますか?

    ルーティンの業務はありません。会議への出席や社員とのコミュニケーションや相談事項への対応はありますが、基本的に既存事業については現場に任せています。実は起業して1年経った頃、盲腸で入院してしまい、当時は権限委譲ができていなかったことで、様々な仕事が私のもとで滞留したことがありました。その反省から、手放せる部分は積極的にバトンタッチするようにしました。そのため、現在は補助金申請や銀行との窓口、新規事業の立ち上げ等、得意とする分野に注力しています。

    Q:社内での重要な決断は、最終的に社長である美辺さんに委ねらると思いますが、これまでの起業人生を振り返って大事な決断をする際に意識されていることはありますか?

    事業を開始した当初の大きな決断は、融資関連(どの銀行から、どのタイミングで、いくらで借りるか)でした。この時は、万が一のことがあっても、自分が会計士として何年か必死で働けば返済できる金額かどうか強く意識していました。

    事業が軌道にのりはじめた今だからこそ強く意識するようになったこととしては、私自身の意思決定が最終的に従業員の給料アップにつながるのか、という点です。美辺株式会社は非公開会社なので、会社の利益が上がったとして、誰に還元するか?という視点にたてば、それは従業員だろうと思っています。全国的に見ても、保育士の給料は安いという課題があるとは思いますが、うちも例外ではなく、保育業界の生産性向上、保育士の労働条件の改善という課題は向き合っていかなければならないと感じております。

    Q:起業後の2019年に第2子、2023年に第3子を出産されています。この時期は仕事をどのように調整されていたのでしょうか?

    (第1子は起業前でしたが)第2子出産時には、保育事業の拠点も3拠点になっていましたし、予定日の1か月後にはコンサルで入っている保育園の開園が迫っている状況でした。

    計画無痛分娩での出産と決めていたので、予定日の1週間前までは出張もしていましたし、出産ギリギリまで仕事をしていました。出産後2週間程度は仕事を休んでいたものの、基本的には意思決定が仕事なので、その間新規事業が一時的にストップするだけで、現場のルーティン業務に関しては(前述したとおり盲腸での入院をきっかけに)権限移譲もすんでいたので、出産で不在にするからといって特に前もって準備したことはありません

    Q:美辺さんは保育士資格も取得されており、「会計士×保育士」のWライセンスだそうですね!会計にも保育業界にも強い美辺さんにしかできない活動もあるかと思いますが、今後どのような挑戦を考えていらっしゃいますか?

    実は、事業を手伝う夫も「会計士×保育士」のダブルライセンスで、凄く稀な夫婦だと思っています(笑)保育の現場は数字に強い人が圧倒的に少ない中で、2016年に名古屋で補助金を活用せずに「一時お預かり専用託児所 はないと®」を開始しました。ただ、来年度から当園が民間保育園に移行することに伴い、補助金が無い形での一時預かり託児所は今年度で終了することになりました。私自身、一時預かり託児所を補助金無しで運営するノウハウをもっていたつもりでしたが、何度も資金繰りのシミュレーションをし、どのようなモデルだと事業が継続できるか試行錯誤したものの現時点で回答は見つからず、このような決断に至りました。

    それでも、一時預かり託児所の需要の高さというのは身に染みて実感しておりますし、産後うつでノイローゼで悩んでいる方も多くいらっしゃる中、どのように一時預かり託児所を社会のインフラとして残せていけるかについては、名古屋で一時預かりで事業を開始した身としては結論を出さないといけない、と考えているところです。また、保育の現場を分かりつつ、さらに、経営的な視点で持続可能なビジネスモデルを作り上げることができる人材というのは全国を探してもほとんどいないのではないか、と思っているので、そこはもしかすると私にしかできない挑戦ではないか、と思っております。

    Q:社長業と3児の母の両立でお忙しい日々だと思いますが、どのように心身のバランスを保たれていらっしゃいますか?

    起業当初は毎日朝から晩まで仕事をし、子どもと一緒にご飯をとることもままならない無理な生活をしていました。その結果、私は盲腸で入院となり、子どもも偏食になる等反動が大きかったことから、「最低でも週1日は必ず休む」「朝食は必ず作る」ことを徹底しています。特に、最近では朝食の準備は子どもと一緒にキッチンに立って進めており、また、朝食のメニューに1日分の食育を詰め込んでいるのでとても大切な時間だと感じています。

    他方で、休日にも仕事をしていることも多く、他のお母さんよりも一緒に過ごす時間は短いとは思います。子どもたちには、私がどんな仕事をしていて、会社でどんな立場にいるかは包み欠かさず話し、”家族はチームであり協力しなければならない”ということを伝えています。また、最近は”自分のことは自分でやる”というのも口癖になっています。もちろん、親として子どもができないことを手を差し伸べて助けるというのも1つの道ではあると思うのですが、私はそうした時間に費やすくらいなら、一緒にお祭りに行く方が時間の密度が濃いという考えなので、時間の密度を濃くするためには、ある程度のことは自分でやってもらわないと楽しい時間に使えないので、自分でやりなさいと言って敢えて手を出しすぎないようにもしていますね

    Q:最後に、美辺さんが考える「起業家に向いている人」を教えてください!

    答えは一択かつシンプルで”メンタルが強い人”です。

    私も昔からメンタルはタフな方だと思っていましたが、会社経営は本当に大変で、その辛さを誰とも分かち合えない部分もあります。会社を設立して8年経過しましたが、その間、新型コロナを境に事業環境も大きく様変わりしました。特に、コロナ禍では不要不急の外出を控える要請が出て、事業が停止していた時期も家賃負担、従業員の給与負担が発生し会社の損益的にも厳しい局面でした。あくまで一例ですが、これ以外にも常に何かしらの問題と向き合いながら今に至ります。

    私自身辞めようかなと思った瞬間がこれまでに全く無かったというと嘘になります。それでも、辞めることは美辺姓を残すことをあきらめることと同義なので、将来的には事業内容等が変わったとしても何らかの形で起業家として生き続けるのだろう、とは感じています。

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    Radio:#金曜JUNK バナナマンのバナナムーンGOLD
    Musician:#Mr.children

    この記事を書いた人

    2019年会計士試験合格後、監査法人で監査・アドバイザリー業務に従事。2023年よりCPASSに参画し、女性会計人材向けのイベント企画・運営、CPASS for Womanのディレクションを中心に担当。山口県出身。女性や地方勢に向けて会計士の魅力をPRしていきたいです!