
公開日:2025/09/17
公認会計士伊藤敬子事務所/伊藤敬子

①20代で念願の海外駐在を実現
――そもそも、なぜ会計士を目指そうと思われたのでしょうか。
大学は経営学部で、マーケティングやブランド論を専攻していました。そのため、就職活動が本格化する前までは、卒業後は漠然と事業会社に入社するのだろうと考えていました。ところが、いざ、就職活動が始まると”本当に私が働きたい環境ややりたい仕事は何だろう?”という壁に直面しました。そこで、初めて真剣に自分のキャリア軸を考えはじめ、「①環境の変化(ライフステージや価値観の変化等)があっても働き続けられること」「②同じ環境で同じ人と働き続けるよりは、新しい挑戦や人との出会いがあること」の2点を重視していることに気付きました。
そういうことを漠然と考えていた折、偶然ゼミOBの会計士とお話する機会がありました。その方から監査法人の働き方(様々なクライアントを担当でき、クライアント毎に監査チームのメンバーも変わる等)を聞いた際に、会計士という選択がストンと腹落ちする感覚があり、話を聞いた翌日には専門学校へ入学していましたね(笑)
――良いロールモデルとの出会いがあったのですね。会計士試験合格後に上京されたのですか。
そうですね。合格後は、関西の監査法人に就職する道もありましたが、東京の高層ビルで働くことへの憧れが強く上京しました。その中でも、当時、あずさ監査法人は東京駅直結の丸の内トラストタワーにあり、そこで働けるというのは、私にとっては法人選びの際の大きなポイントでしたね(笑)監査法人時代は、海外の仕事に挑戦したいという思いが強く国際部を選択し、海外に上場している日本企業の監査やリファード業務に従事しました。
シニアアソシエイトに昇進し、インチャージも経験して、ある程度監査の全体像が分かったつもり(今思うと表面的な理解に留まっていたとは思いますが…)になってきたタイミングで、何か新しい挑戦をしたいと思いました。”残りの20代を後悔なく過ごすには?”と自問自答した時に、「海外で働く」が選択肢として浮かびました。他方で、当時の監査法人は、海外駐在の枠は少なく、また、年次的にもすぐに実現しなそうだと思い、転職を決断しました。
――なるほど。「20代のうちに」という視点は1つキーポイントですよね。伊藤さんの夢は実現したのでしょうか。
はい。監査法人卒業後のキャリアとして選んだのは、アジアを中心に複数の拠点を持つ国際会計事務所のSCS Global Consulting Limitedでした。勤務地として打診されたのが「シンガポール事務所」か「香港事務所」でした。私は、香港事務所を選択したのですが、都会的な場所とローカルな場所がよいバランスで混在しており、また、スタッフの仕事の自由度が相対的に大きいように感じたからです。
SCS香港時代の主な業務は香港に進出する日系企業のサポートであり、担当する業務も、監査の枠を超え、コンサルテイング業務や財務Due Diligence、内部監査等多岐に渡り、私自身の仕事のキャパシティも広がりました。当時、香港事務所には、日本人は4名しかおらず、基本的には香港人のCPAとチームを組み仕事を進めていくスタイルでした。お互い母国語ではない英語でコミュニケーションを取りつつ仕事を進めていくのは大変な面もありましたが、バックグラウンドが異なる彼らと働くことで、多様な価値観や考え方を理解できたことは、様々な環境に適応できる柔軟性が身についたと思います。
②駐在からの帰国後、ライフワークバランスを見つめ直し事業会社へ転職
――SCS香港を離れ、帰国を決めた理由はありますか。
実は、SCS香港時代に入籍し、パートナーとは別居婚をしていました。30代になり、将来的な出産・育児も見据えたタイミングで帰国を決断しました。20代は仕事最優先の生活だったため、次の職場にはライフワークバランスの取れた環境を望むようになりました。加えて、それまでのキャリアが第三者的立場でクライアントにサービスを提供する立場だったことから、1度事業会社で会社の中に入っての経験を積みたい思い、株式会社ジェイアイエヌ(現 株式会社ジンズホールディングス)に転職しました。そもそも眼鏡好きということもあったのですが(笑)ジェイアイエヌは当時も東証一部上場企業ではあったものの、新しいチャレンジを続けている会社で、これから中国等での海外展開を本格化するフェーズで勢いがあった点を魅力に感じ入社を決意しました。
――これまでのキャリアを活かしつつ、ワークバランスも実現できる選択ですね!事業会社では、具体的にどのような業務に従事されたのでしょうか。
事業会社には6年程度(うち2年は産休・育休)勤務し、前半は内部監査部門、後半は経理部門にいました。
内部監査部門には、部長の下のリーダーポジションで入りました。当時は会計士がいなかったためJ-SOXの責任者を拝命し、それに加え、業務監査、店舗監査等に従事しました。J-SOX自体は、監査法人やSCS香港時代にも経験があったので問題はなかったのですが、業務監査や店舗監査は初めてで、これまで馴染みのなかった分野を勉強する必要がありました(例えば、人事の監査にあたり労働基準法等の知識が必要だったり、店舗監査では運営ルールやオペレーションを学ぶなど)。業務監査経験を通して、会社の中には縁の下の力持ちとして様々な部署があり、会社全体で問題を未然に防ぐ、また問題が起こってもすぐに解決できるような内部統制がいくつもあることを理解しました。そのような新しいことを学びながら、多様な部署の人とコミュニケーションしながら仕事を進めるスタイルは肌にもあっていました。結果として、監査の幅も広がり、現在の監査役の業務にも活きているので、振り返ると良い経験だったなと思います。
その後、経理部門への辞令が出ました。実は、経理は四半期毎に締め切りがあるので忙しいと勝手に嫌煙していたので青天の霹靂でした。当時経理部に長く在籍されていた方が辞められ、次の候補もすぐに見つからないということで、「伊藤さん、公認会計士だから経理もできるよね」と言われ、異動となりました。会計士が経理が得意かというと実際は別物だと思うのですが、周りの人から見れば会計士は会計業務全般に詳しいと思われたのでしょうね(笑)ただ、辞令が出たタイミングは、内部監査での業務もある程度慣れた時期でもあり、新しい挑戦で良い経験になるだろう、と思い前向きに異動しました。監査法人や内部監査では完成されたものを確認する立場でしたので、部署異動後、初めて財務諸表の作成側に回ってみて、作成する側の苦労というものを痛感しました。また、当初想定していたとおり、経理は四半期毎に締め切りが明確に定められているので常に時間との勝負でした。すでに子供が2人いたので、決算シーズンは遠方に住む母を呼んで何とかこなしていました。
――詳細にありがとうございます。事業会社に入り、会社の中の立場も経験することでキャリアの選択肢が広がりそうだなと思いました。
そうですね。事業会社に入社し、会社の成長の背景には様々な部門のメンバーの下支えがあることを間近で見れましたし、自分自身も当初想定していなかった部門での経験も積むことができキャリアの幅が広がっている実感はありました。
一方で、経理も約2年半経験してある程度慣れてきて、これからどうしようかなと感じるようになり、また次の新しい挑戦がしたいと模索し始めます。ここに至るまで、監査法人での監査業務、国際会計事務所での海外駐在、事業会社での内部監査に経理と色々な業務を経験したきたものの、他方で、どの業務も数年間の”つまみ食い”で何も極められていないのではないか、という漠然とした不安や焦りもあったのは事実です。
③古巣の同僚からのオファーで監査役に就任
――その後、次のキャリアとして監査役を選択されていますね。決断までに、どのような背景があったのでしょうか。
きっかけは、監査法人時代の同僚からのお声がけでした。声をかけられたタイミングではピンときていなかったのですが、そこから監査役の役割について自分なりに調べたり、すでに監査役に就任している友人に話を聞くうちに、監査役というキャリアなら私の”つまみ食い”キャリアが活きるかもしれないと思えたこと、何よりまた新たな挑戦ができることにワクワクしオファーを受諾しました。
最初に常勤監査役として就任したRecovery International 株式会社は、訪問看護事業を行っており、高齢化社会という我が国の社会課題解決に向けたビジネスである点に共鳴しました。また、経営陣の皆さんが真摯に業務に取り組んでいることに感銘を受け、私もここで新しいチャレンジがしたいと思いました。就任当時は、会社も上場準備中というフェーズで、これまでの知見を活かし、監査役として取締役の職務執行状況を確認する中で、会社全体のガバナンス体制、コンプライアンス体制、内部統制の構築、強化等に取り組みました。2022年に会社は上場しましたが、上場準備から上場まで経験できたことは大きな学びになりました。また、会社の成長を間近で見守れることも貴重な経験だと思っています。
――監査役就任1社目の会社で上場を経験できたのは凄いですね!現在では、複数社の監査役に就任されていますね。監査役を数年間経験して感じることや監査役に向いている人の特徴等ざっくばらんに教えていただけますか。
現在、新規に2社の非常勤監査役に就任しています。3社とも事業内容や経営スタイルが異なるので勉強になる点も多いですし、横の比較も可能になったことで視点や考えが広がった気がしています。
監査役の仕事は、自分で手を動かすわけではありません。そのため、例えば、直前に居た事業会社時代と比べて、仕事の成果や会社への貢献度が可視化しづらく、立ち位置の難しさや自分の無力さを感じる場面はあります。また、”会社の健全な成長に寄与したい””従業員の方に長く良い経験を積んでもらいたい”という根幹は経営陣と変わらないものの、会社がアクセルを踏みたい瞬間にも、監査役という立場上、リスクにフォーカスした発言をしなければならない瞬間もあります。ゴールが同じでも、立ち位置によってリスクの考え方に齟齬があるのは仕方のないことなので、そういうのも含め多様性として、ガバナンスの質を高めているのだと信じています。利害関係者の誰か(株主・従業員等)が、間接的にでも監査役が居てくれて良かったと思ってくれる瞬間があればと思い、自分なりに真摯に業務に向かっています。最近、ある従業員の方から「伊藤さんが居てくれて安心です。お母さんみたいで」と言われたことがあり、「お母さん?!(笑)」とは思いましたが、とても嬉しかった言葉でした。
監査役に向いている人の特徴といっても、個人的には、常勤と非常勤でも微妙に異なると考えています。常勤監査役は、あるべき論はありつつも、最終的には現実的なラインでの落としどころを見つけることが求められるので「バランス感覚がある人」が向いていると思います。また、情報が手に入るパイプを持っておかなければ業務を全うできないので「円滑にコミュニケーションできるスキル」も求められると思います。他方で、非常勤監査役は「外部から見た時の率直な印象等を忌憚なく発言できる人」が求められているように感じます。
私が初めて監査役に就任した時と比べて、監査役という選択は、女性会計士のキャリアとして一般的になっていると思います。スケジュール調整がしやすく、会計監査との親和性も高いので女性会計士にフィットしやすいのも事実です。他方で、会社法上の責任は重いので、簡単に引き受けるのではなく慎重に検討されることをおすすめします。
――現在、スキルアップのために意識していることがあればシェアしてください。
業務上、世間で起きている不祥事や問題にはアンテナを張っています。特に不祥事後の第三者委員会の調査レポートは読むようにしています。他社の不祥事とその要因、再発防止策を知ることで、自身のリスク感度を上げるとともに、関与している会社のガバナンス体制や内部統制の評価や強化に活かせればと考えています。
④育休復帰後の働き方
――伊藤さんは2児の母ということで育児と仕事の両立についてもお話を伺いたいです!
上述した株式会社ジェイアイエヌの社員だったときに第1子、第2子を出産しました。出産・育児を見据えて事業会社に転職したところもありますが、想像どおり産休・育休も取りやすく復帰もしやすかったです。一方で、第1子の育休復帰後、育児も仕事もどちらも完璧にしなければと理想を追い求めすぎてしまったことは反省しています。結果的に体調を崩してしまったこともあり、サスティナブルではないと反省しました。そこから、理想と現実のギャップに上手く折り合いをつけることを意識しています。短期的な結果を追い求めるのではなく、長距離思考で及第点とれたらまぁ良いか、と適度に手を抜くことも大切だと思っています。
また、育休後は、仕事に費やせる時間は限られてくるので、スケジュール調整を前もってする等時間をより意識するように仕事のやり方は変わった部分もありますが、仕事のポリシーは変わっていません。
――事前アンケートでご褒美が家族旅行となっていて素敵だなと思いました。
ありがとうございます(笑)長女が日本の地理や世界遺産が大好きで、行きたいところをリクエストしてきます。直近では、厳島神社、軍艦島、佐渡島へ行きました。子供たちと一緒に、その土地の歴史や名物を調べることで私自身もより旅行を楽しめています。
――プライベートで今後挑戦したいことはありますか。
やりたいことは沢山あります。ゆっくり船旅や親子留学にも関心がありますし、華道も再開したいです!
⑤後輩女性会計士へのメッセージ
――最後に、後輩の女性会計士にメッセージをお願いできますでしょうか。
冒頭に会計士を目指したキッカケのところでもお話したとおり、会計士資格は、どんな状況でもキャリアの選択肢が広がっているので、やりたいことにトライしやすいのは大きな利点です。是非やりたいことにチャレンジしていただければと思います!私自身も常に新しい挑戦をしたいとは思っていますが、それらは急に思いつくものではなく、漠然とやりたいこととして頭の片隅にはあるものの、機が熟したタイミングで実現していくことが多いです。
また、会計士業界は狭く、人とのつながりは非常に重要です。そのため、どのような場面でも自分のベストを尽くすことは私自身も意識してきたところです。もちろん、良いパフォーマンスを発揮できることに越したことはないですが、誠実に真摯に業務に向き合う姿勢が大切だと思います。
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Idol:#TWICE(長女のK-POP好きの影響を受けてハマってしまいました…。お酒や甘いスイーツとともに1人で韓国ドラマを見る時間は至福の瞬間です)
Motto:#マイペース(家族や友人からもよく言われますが、基本マイペースです。仕事でもプライベートでも、マイペースでベストを尽くすことを心がけています。)
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メガネ!気分で使い分けています!!

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我が家の猫ちゃん。とっても人懐こくて、甘えん坊で私の後をずっと追ってきます。

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最近家族で旅行した佐渡島。金山として栄えた歴史と豊かな自然を満喫できました!!
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