
公開日:2025/02/04
角野里奈公認会計士事務所/株式会社ACCESSO 角野里奈
Q:20代から30代前半にかけてどのようなキャリアを歩まれたか教えてください!
大学入学当初はマスコミ志望で(東大の進振りでは)文学部を選択していた私が、ひょんなことから会計士を目指すことになったのは、大学の一般教養で受講した会計学の講義で「財務諸表は企業にとってのレントゲン写真」「会計士は財務諸表を見てビジネス上の課題を発見・助言できる企業の医者的存在」という話を聞いたことがきっかけでした。この話を聞き、幼少期に医者に憧れたものの、年齢を重ねるにつれ、血が苦手で適性がないと悟ってあきらめた記憶が不意に蘇り心を揺さぶられました。冒頭に記載したとおり、当初はマスコミという全く違う業種を志していたものの、キャリアについて再度真剣に考えた際に、特に当時は就職氷河期で知名度の高いテレビ局や出版社への就職は狭き門であり就職浪人の可能性もあったこと、資格を持っていればライフステージの変化があってもキャリアの選択肢が広がるだろうと思い、一念発起して文学部から経済学部に転部して会計士を目指しました。
合格後は中央青山監査法人に入所し、製造系クライアントを中心とする様々な業種の監査業務に従事しました。実は、入所時から会計監査よりアドバイザリー業務の方が関心が強かったのですが、会計士登録や法人の解体の時期が重なったこともあり、次のステージに移る丁度良いタイミングだと思い、入所4年目でPwCアドバイザリー株式会社(現:PwCアドバイザリー合同会社)へ転籍しました。PwCアドバイザリー株式会社には4年間在籍しましたが、M&Aに係る財務DDが主な業務でした。一緒に働くメンバーも会計士が多く、監査の延長のような雰囲気もあり、仕事自体も好きだったのですが、財務DD自体は買収が決定した段階で案件がスタートし、レポートを提出した段階でクローズするので、そのレポートを使って最終的にどのような交渉が行われるかまでは関与できないことが大半で、その点に次第にもどかしさを感じるようになりました。M&Aに長期的なスパンで関与するためには、ファイナンシャルアドバイザリー業務(FA業務)の経験も必要だろうと思い、キャリアを見つめ直し、この機会に環境もリセットしようとKPMGへ転職しました。KPMGでは2年間FA業務、企業価値評価業務、企業結合に係る無形資産評価業務等を中心としたM&Aアドバイザリー業務に従事しました。この部署では、会計士はマイノリティで、金融機関出身者の方が多かったです。会計士の方でもFA業務については財務DDをやる傍ら横目に見ながら吸収される方もいらっしゃるとは思いますが、私は実際に自分で手を動かさないと血肉化しないタイプということもあり、このKPMGでの経験を通して、M&Aについて一気通貫して分かるという自信に繋がったと実感しているので転職して良かったと感じています。
そんなこんなで、まとめるとファーストキャリアでは大半の人と同じように大手監査法人で監査経験を積んだあと、3次試験(現:修了考査)合格後の20代後半からM&Aの世界に飛び込み、30代前半までPwCとKPMGの2法人で計6年ほどみっちりと鍛えられました。今でこそM&Aが私のキャリアの軸となっていますが、当初から現在のキャリアを想定していたわけではなく、好奇心と勢いで飛び込んだ世界です(笑)私が会計士資格を持たずに裸一貫でどこかの事業会社に就職していたとして、M&Aという何百億/何千億規模の資金が動く企業の一大イベントに立ち会える可能性は極めて低かったとも思いますし、会計士としてアドバイザリー側で関与できるチャンスがあるなら「激務そうだけど、逆に挑戦するなら今の時期しかない!」と思っての決断でした。振り返ってみても、30代前半までは初めての業務でも、チャレンジする姿勢の方が結果より重視される時期だったと思うので、当時の決断は間違っていなかったと思います。
Q:30代半ばでご出産されたとのことですが、その前後でどのようにキャリアチェンジをされましたか?
前述したとおり、M&Aについて一通り経験し自信もつきはじめたタイミングで、ライフワークバランスも意識して転職活動を行い、次のキャリアとして事業会社(リクルート)を選択しました。リクルートでは、投資マネジメント室というCFO直下の組織に属し、社内のM&Aアドバイザーの業務を中心に担当しました。これまでは外部のアドバイザリーとしてM&Aに関与していたところ、リクルートで初めて当事者の立場になることで、会社の成長のために必要なM&A戦略の構築や企業価値向上のための施策の検討など幅広い課題解決に携わることができ、非常に刺激の多い日々を過ごすことができました。事業会社のコーポレート部門は各々が専門性の高い業務を行っておりますが、企業価値向上のためには経営企画と各部署の目指すベクトルが同じである必要があります。物事を前進させるには、適切なタイミングで関係者を巻き込む必要がありますが、そうした経験も事業会社に転職したからこその学びであり、特にリクルートの社員は、求心力に秀でた方が多く、幅広い部署の方々とディスカッションを行う日々を通じ私自身の視野も広がりました。また、転職時のプライオリティとして挙げていたライフワークバランスも改善され、35歳で第1子を出産しました。
もともとリクルート入社時から、定年まで勤める風土の会社ではなく、当時の管理部門の平均在籍期間も5年だったことから、退職時は独立するタイミングという意識はありました。入社3年目でワーキングマザーとなり、組織に属しているが故の悩みの1つとして、仕事に専念できる環境が整っている同僚と勝手に自分自身を比較し自信を失うこともありました。徐々に、他人との比較ではなく、自分の中で設定した100点満点を達成できる環境を作りたい、その手段としての独立という思いが強くなったこともあり、育休期間も含め約5年働いた後に退職し、その後、独立しました。独立後は、これまでのM&A業務での経験を活かし、財務DD、株式価値算定業務、事業計画モデル作成業務、M&A戦略構築支援業務等を中心に従事するとともに、上場企業複数社の社外監査役・社外取締役(監査等委員)に就任しています。
Q:お仕事のモチベーション、やりがいを教えてください!
会計監査の業務をしていた時期は、「会計は過去の会社の活動のスナップショットを見るだけなのかな」と思ったことも正直ありました。しかし、その後、会計監査の仕事から飛び出し、M&A関連の業務に携わるうちに、「企業の数字が読めること」は様々な可能性につながることを体感しました。(例:その会社の市場での価値がわかる、会社の成長のための課題が見える等)
現在は社外役員の仕事もしていますが、「会計士として監査法人での業務を経験した立場」と「事業会社での業務を経験した立場」の双方の経験を活かすこともできていると思っています。会計士の資格を持っているからこそ、今の自分に繋がるいろいろなフィールドでの経験を積むことができたという意味で、資格を取って本当に良かったと思っています。
また、上述したとおり、私のキャリアの中枢はM&A領域ですが、M&Aの魅力は、端的に言えば、買収を通じてスピードを買い、非連続的な会社成長を可能にすることだと思います。M&Aアドバイザリー業務は、案件毎に留意すべきポイントが異なり、「この会社にはこのようなアドバイスが刺さるだろう」というオーダーメイドのサービスです。その意味では、クリエイティビティが求められる点にやりがいを感じていますし、会計士を目指す端緒ともなった「会計士は企業のお医者さん」という役目を全うできている感覚があります。
Q:スキルアップのためにしていることを教えてください!
M&Aの業務を始めたときは、金融機関の方と話す機会も増え、彼らと同じ言葉で話せないといけないという危機感を感じ、ファイナンスを学べる夜間のビジネススクール(社会人課程の大学院)に2年間通いました。
独立後は、仕事関係の知識だけではなく、ふとした会話で出る常識や教養の深さといった、人間として「きちんとした大人であること」がとても大事だと感じる場面が増えました。そのため、例えば、地方出張の際には現地の文化や歴史について会社の方とある程度会話ができる等、幅広く色々なことを知っている大人でいられるよう心がけています。
Q:自分へのご褒美は何ですか?
数年前から長野県との2拠点生活を始めました。現在は、夫と2人の娘と4人家族ですが、娘たちは生まれも育ちも東京のため、地方の自然に触れさせてあげたいという思いは昔から漠然とありました。そんな中、コロナの影響で、友達と遊ぶことや大人数で集まることが難しくなったタイミングで、それならば家庭内でこぢんまりと庭仕事や果物狩りをして、東京ではできない生活を通してリフレッシュできる環境を整えたいと思ったことがきっかけです。現在でも、子供の学校や習い事の関係もありますが、隔週1回のペースで週末や休日のお休みを利用して現地で過ごしています。
Q:仕事とプライベートそれぞれ目標や夢を教えてください!
仕事面では、事業会社時代に「角野さんと一緒に案件ができて良かった」と言ってもらえた経験が原動力になったことから、今でも一緒に働く方にそう思っていただけることを目標としています。
プライベートでは、娘達の習い事を見学していて、前にできなかったことができるようになっている瞬間を見て成長を実感できるのが嬉しいので、これからもそうした瞬間を傍で見守っていきたいです。
Q:育休復帰後の働き方の工夫を教えてください!
仕事と育児を「両立しよう」と思うのではなく、その時々で頭を切り替えて目の前の「仕事」、目の前の「育児」に全力で向き合うように心がけています。その他、とにかく業務時間を効率化するための工夫(例:Chat GPTの活用等)に取り組んでいます。事業会社でワーキングマザーとなった後半2年は、子供のお迎えでアウトプットが中途半端なまま帰宅することへの罪悪感や、反対に、子供と居るときも仕事脳から抜け出せず切り替えが難しかったところもあるので、そういった意味では独立後の方が切り替えもしやすくなったとは感じています。
また、直接の回答ではないかもしれませんが、育児をしながら仕事でも活躍する女性会計士仲間も多く、彼女たちの存在も原動力になっています。
Q:キャリアに悩む後輩女性会計士にメッセージはありますか?
私自身、キャリアの大半が監査畑ではなくM&A領域ということで、亜流な部類ではないかと思っています。ただ、社外役員等の打診を受けるときも、結果として、事業会社で経験を積んでいる点を評価して下さっている印象を受けます。
20代30代は、監査法人に残る同期は順調に出世していく一方で、自分自身はM&A領域に進んで転籍・転職を繰り返し、その都度1年生からのスタートのような気分でキャリアの遠回りをしているのではないかと悩んだことも何度もありました。また、1人の女性として、同世代の人たちが結婚・出産の報告を受ける中で焦った時期もありましたが、「30代前半までは仕事一番」というのは自分で決めた決断だと思って極力気にしないようにしていました。
結果的には、20代30代に仕事にしっかりと打ちこんだことで、独立してもやっていけるだけの基礎体力が身についたと思っていますし、今振り返ると、どんな挑戦も将来の糧になっていたと実感しています。
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Hobby:#インテリア #お部屋の模様替え
Motto:#今日一日を誰かに見られていても恥ずかしくない自分でいたい
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仕事アイテム
ケーブル類・イヤホン(とにかくWeb会議が多いので予備含め2つ持ち歩いています!)・目薬などの小物を入れるための「お仕事アイテムポーチ」はお気に入りのものを使うと気分が上がるので私なりにこだわっています!今は大好きなフェイラーのポーチを愛用中です。

リラックスアイテム
香りアイテムが大好きでたくさん集めています。自宅玄関、リビング、洗面所、寝室、自分のオフィス・・・全てさりげなく違う香りのものを置いて楽しんでいます。

プライベート
1年前からパーソナルトレーナーさんの元に週1回通って筋トレを続けています。いわゆるマッチョになるためのトレーニングではなく、正しい身体のバランスや姿勢を保つためのトレーニングを中心に指導していただいています。ジムで自己流でトレーニングをしていたときと全く違う視点でアドバイスをくださるので、いつも目から鱗です。
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