公開日:2023/06/14
関西の公認会計士キャリアの考え方(プロフェッショナルファーム編)
会計士には多様なキャリアの選択肢がある中で、「どのようにキャリアを選べば良いのかわからない」「そもそも選択肢が多すぎて全体像が把握できてない」などのお声を多くいただきます。
さらに、関西でのキャリアについてフォーカスされた情報は少ないように思います。
そこで、本シリーズでは、CPASSメンバーであり会計士の転職支援歴17年のキャリアアドバイザー広瀬に、同じくCPASSメンバーで会計士の梶原、CPA会計学院でチューターを務める会計士試験合格者の柳本が、会計士のキャリアについて根掘り葉掘りお聞きした対談の様子をお届けする記事です。
現在キャリアの選択に悩んでいる方や、今後のキャリアについて基礎的な知識を身につけたい方の参考になりますと幸いです!
INDEX
①対談者プロフィール
②会計士のキャリアの選択肢
【プロフェッショナルファーム】
1.監査法人
2.税理士法人・会計事務所
3.コンサルティング会社・FAS
③次回予告
①対談者プロフィール
広瀬 貴司
CPAキャリアサポート株式会社
株式会社伊藤園、株式会社MS-Japan、株式会社マイナビを経て現在に至る。
公認会計士のキャリア支援歴15年以上、通算で4,000名以上の公認会計士の転職相談に対応。東京・大阪いずれでも転職相談経験があり、マーケットの相違点についても精通。趣味は、投資とスポーツ観戦。
梶原大樹
株式会社LapisNova 代表取締役/公認会計士・税理士
大学在学中の2012年に公認会計士試験合格。有限責任監査法人トーマツ大阪事務所、スタートアップでの管理部長・CFOを経て、2021年に独立。現在は、社外CFO、IPO支援、バックオフィス構築などを行う。趣味は、サウナとゲーム。
柳本篤生
CPA会計学院大阪梅田校チューター
大学在学中の2022年に公認会計士試験合格。東京のBIG4監査法人に就職予定。趣味は読書とボルダリング。
②公認会計士のキャリアの選択肢
公認会計士の活躍の場は、大まかに分けて2つのパターンに分類できます。
1つ目は、監査法人・税理士法人などのプロフェッショナルファーム。
2つ目は、上場企業・ベンチャー企業など事業会社に所属する組織内会計士。
より細かく分類すると、両者が混在した金融系(銀行・証券会社・各種ファンド等)や独立開業・起業などもあります。
より詳細については、こちらのコラムをご参考ください。
どれが正解というものはありませんが、「自分はどの環境が向いているか」「自分がやりたいことは何か」などを考えるうえでは重要な分類となります。
プロフェッショナルファームの場合、同僚は同じく専門的な知識と経験を有し、クライアントに対して専門的なアドバイスやソリューションを提供していきます。
組織内会計士の場合、事業会社のメンバーの一員として働くため、当事者意識が重要となります。
さらに、地域的な特性も僅かながらには存在します。
そこで、これら公認会計士の活躍の場と関西特有の状況も踏まえながら、個別具体的なキャリアについて深掘りしていきましょう。
【プロフェッショナルファーム】
1.監査法人
(梶原)
説明するまでもないというほど王道のキャリアである監査法人ですが、あらためて監査法人の仕事や特徴について教えていただけますか?
(広瀬)
監査法人は、公認会計士の独占業務である「監査業務」を主たる業務としている法人ですね。監査業務は、企業が作成した財務諸表について、関連する法令や会計基準に準拠して適切に作成されているかどうかをチェックする仕事です。
監査法人にも種類や業務の違いがあり、皆さんご存知のBIG4系(KPMG、EY、Deloitte、Pwc)や、数百名〜十数名規模の「準大手・中小監査法人」、最近ではIPO監査や非営利法人に特化した「特化型監査法人」などもありますね。
(梶原)
大半の会計士は監査法人からキャリアをスタートしていますよね。最近は、準大手・中小監査法人に行く会計士が増えているとも聞くのですが、実際のところどうなんでしょうか?
(広瀬)
たしかに、準大手・中小監査法人に行く人は増えている傾向にあると思います。合格時点で監査法人の次のキャリアを見据えている人は、BIG4ではなく幅広い業務を経験できる中小監査法人に魅力を感じている人もいますね。また、BIG4では昇格できる枠が限られていることもあり、パートナーを目指したい人が中小監査法人にBIG4から転職するケースもありますね。
(柳本)
「BIG4は組織が縦割りだから幅広い業務は経験しにくい」と聞いたことがあります。実際のところはいかがでしょうか。
(梶原)
担当するクライアントの規模によると思います。私の場合、BIG4では比較的小規模の上場企業をメインで担当していたので、監査業務においては担当する勘定科目も様々でしたし、幅広い業務を行っていました。ただ、監査業務以外はほとんど経験していませんでした。その点、BIG4の中でも関西や東京以外の比較的人員が少ない事務所であれば、パブリックやIPO準備など経験できる機会はあると思います。逆に、都市部だと監査部門にいる間は監査しかできない可能性が高いと思います。
(柳本)
少し観点が変わるのですが、年収について、BIG4よりも高い準大手・中小監査法人もあるという話を聞いたことがあります。それでも、BIG4に行く人が多数だと思いますので、監査法人を選ぶポイントとしてBIG4の持つブランドもあると思いました。実際のところBIG4のブランドはその後のキャリアに生かされるものなのでしょうか?
(広瀬)
仰る通り、BIG4を選ぶポイントとしてはブランドが大きいような気はしますね。しかし、長い目で見るとBIG4というブランドよりも、どういう業務ができるのかの方がより大事になってきます。なので、監査法人という環境をうまく利用して自分の価値を高めていくことが、将来のキャリアのためには大切な考え方かと思います。ただ、自分の可能性を探すにあたって、まずはブランド力のあるBIG4に行くという考え方も一つの有効な選択肢だと思います。
(広瀬)
あとはBIG4をキャリアのスタート地点としてみると、FAS、コンサルティング、税務、事業会社への出向制度が基本どの法人にもあるんですよね。この出向制度を用いて、転職に比べてリスクを下げて新しいチャレンジができるというのもBIG4に入るメリットの一つだと思いますね。ただ、出向制度はあまり活用されていないようで、もったいないなと感じるところではあります。
2.税理士法人・会計事務所
(梶原)
続いては、税理士法人について見ていきましょう。
私の周りでも税理士法人を経験している人は一定数いますね。
(広瀬)
会計士は税理士登録もできるので、税務のキャリアを経験できるのはメリットですよね。
監査法人から税理士法人にキャリアを進める方は、独立するための修行と考える人が多い印象です。もちろん、純粋に税務のキャリアに興味があってその道を極めたいという人もいますが。
(柳本)
独立会計士の方は税理士登録をしている方が多いように感じます。独立を考えているのであれば税理士法人を経験するのが良いのでしょうか。
(広瀬)
必ず税理士法人を経験しなければならないということはないと思います。独立した際に、強みとして打ち出せる他の業務経験があり、税務業務をあまり拡大しない戦略をとるのであれば、税理士法人を経験しなくても良いと思います。
ただ、税務業務をメインにするのであれば、税務実務の経験を積んでおいた方が安心ではあると思います。
(梶原)
私は独立して税務業務もやっていますが、税務実務ほぼ未経験での独立なので、かなり勉強しましたし、知り合いの税理士にアドバイザー的に関わってもらっています。それくらい、未経験で始めるのは想像以上に大変でした。
(広瀬)
あと、税理士法人も種類があるので、監査法人を選ぶのよりも難易度は高いと思います。
監査法人と同様のBIG4系の他、辻・本郷税理士法人、税理士法人山田&パートナーズのような国内大手や中堅税理士法人の国内系税理士法人、個人会計事務所などの中小会計事務所があります。
BIG4系では、クライアントが大手上場企業などが中心となり、連結納税や組織再編、移転価格税制などの高度な業務を扱う機会があります。
国内系税理士法人は、大手上場企業から中小企業までクライアントの幅が広いです。スタンダードな税務業務(税務顧問、記帳代行、決算、税務申告など)の他に、代表が会計士・税理士の場合には会計アドバイザリーや財務コンサルティングを行っている場合もあります。
中小会計事務所では、中小企業や個人事業主などの個人もクライアントになります。業務としては、スタンダードな税務業務がメインになると思います。クライアントが小規模なので、1人当たり15〜20社くらいを担当することになり幅広い業種を経験できると思います。
(柳本)
仮に独立を考える場合には、上記の3種類だとどれがおすすめなのでしょうか。
(広瀬)
事務所によって強みや特徴が異なるので、ご自身がどの分野で独立後にやっていきたいかによると思いますね。いわゆる街の税理士としての開業であれば、国内系税理士法人や中小会計事務所でスタンダードな税務業務を経験しておくのが良いと思います。監査法人とはまた違う業界なので、悩むようでしたら我々のようなキャリアアドバイザーと相談しながら、整理していくのがオススメです。
(柳本)
必ずしもBIG4のような大手にいくというのが正解ではないのですね。
(広瀬)
そうですね。特に独立を視野にいれているのであれば、クライアントが中小企業になることを理解しておくことが重要です。
監査法人では上場企業がクライアントになるので、経理部や財務部と深く広い範囲で会計の話ができます。一方、中小企業だと社長さんや管理部が経理人事財務も全部やってる場合が多いです。なので、お客さんとの会計知識のギャップに悩む人は一定数いるという印象です。そうならないためにも、中小企業がクライアントになる規模の税理士法人を選ぶのも地味ではありますが重要なポイントではあると思います。
(柳本)
独立してからは、営業力も重要になると思います。監査法人で働いてる間に営業力や人脈を広げるには具体的に何をすれば良いでしょうか。
(梶原)
監査法人で営業する機会が増えるのは、マネージャー以上の職位かなと思います。マネージャーであればクライアント以外の企業に訪問して営業したりすることもありますが、スタッフ・シニアスタッフではこのような機会はほとんどないと思いますので工夫が必要かなと思います。人脈を増やしたいのであれば、異業種交流会や勉強会などのイベントに参加するなどして、監査法人外のコミュニティに足を伸ばすことが重要かと思います。そこで、世の中の企業がどのようなことに困っているのかなどを考えるのも営業力を鍛えるのには良いと思います。
(柳本)
梶原さんは独立後どのように営業してクライアントを獲得されていますか。
(梶原)
私の場合は、コンサル業務がメインで税務はほとんど行っていないので、直接の参考にはならないかもしれませんが、特に営業活動はしていないというのが正直なところですね。ほぼ全てが紹介によるものです。紹介元としては、弁護士さんや司法書士さんなどの他士業であったり、証券会社・印刷会社さんなどIPO関連の方、ご支援先のクライアントが他の管理部でお困りの企業をご紹介いただくということもあります。最近は、既存のクライアントから「税務もお願いします」というパターンもあり、目の前のお仕事に全力で取り組むというのが一番の営業なのかもしれないと最近は思っています。
3.コンサルティング会社・FAS
(梶原)
続いては、コンサルティング会社・FASについてです。
ここはイメージが沸かない人も多いかと思います。
会計士のキャリアとして多いコンサルティング会社とFASについて簡単に教えていただけますか?
(広瀬)
コンサルティング会社は種類も様々ですが、会計士の転職先として多いものに限って説明すると大きく三種類あります。
企業が抱えるあらゆる問題に包括的にアプローチする総合系コンサルティング会社、会計事務所や税理士法人を母体として高度な会計・財務・税務の領域のコンサルティングを行う会計系コンサルティング会社、中長期の事業計画や新規事業の立案など企業の経営層が抱えている課題を解決する方法を提案する戦略系コンサルティング会社などです。
FASは、Financial Advisory Serviceの略で、財務に関するアドバイスを行う会社です。具体的な業務として、M&Aアドバイザリーやデューデリジェンス、バリュエーション、PMIなどが挙げられます。それぞれの業務を各専門チームが連携して実施し、会計士だけでなく金融機関・コンサルティング会社出身者の方も多く在籍していますね。
(柳本)
コンサルティング会社といっても色々と種類があるのですね。転職を考えた際にはどのように選ぶのが良いのでしょうか?
(広瀬)
BIG4監査法人に在籍している方は、出向制度を活用するなどしてグループ内でコンサルティングを経験するのがリスクが低いとは思います。もしご自身の志向と合わないと感じても、監査法人に帰任するという選択肢もとれるので転職よりハードルは低いと思います。もしやりたい分野が明確であるなら、その分野に強いコンサルティング会社に行くのも良いと思います。
ただ、やはりコンサルティング会社の業務は基本ハードなので、働き方を改善したいからという理由で転職される方は少なく、明確な目的意識を持って転職される方が多い印象ですね。
(梶原)
BIG4でグループ内で出向する際にも、コンサルティング会社の担当者との面談時に「監査法人と違ってかなりハードになるけど大丈夫?」という質問をよくされると聞きます。実際コンサルティング会社の出身者の方は、ハードだったと口を揃えておっしゃいますね。。
一方で、コンサルティング会社を経験している方は優秀な方が多い印象です。特に思考力やプロジェクト管理や仕事の進め方などソフトスキル面がかなり鍛えられるとお聞きしたことがあります。
(柳本)
コンサルティング会社やFASを経験した後のキャリアとしてはどのようなものがあるのでしょうか。やはり独立が多いのでしょうか、それともさらに転職することもあるのでしょうか。
(広瀬)
FASを経験した人は独立する人が多い印象ですね。コンサルティング会社は先にお話しした種類にもよると思いますが、会計系コンサルティング会社を経験した人も独立する人が多い印象です。それ以外のコンサルティング会社を経験した人は、ベンチャー・スタートアップや事業会社の経営企画などに転職しているケースが多い印象ですね。
特に戦略系コンサルティング出身者は、会計士が得意ではないビジネスサイドや未来の画を描く力があるので転職も有利でしょうし、ご自身で起業するということも可能でしょう。
(梶原)
関西という地域にフォーカスを当ててみると、総合系コンサルティング会社、会計系コンサルティング会社に転職するケースはあると思いますが、戦略系コンサルティング会社についてはほぼ東京という印象ですが実際のところどうでしょうか?
(広瀬)
ボストン・コンサルティング・グループやマッキンゼー・アンド・カンパニーなども数年前から関西支社を立ち上げておられありますが、実際まだまだ関西では求人の母数は東京と比べるとかなり少ない印象ですし、希望される方は東京に行かれる傾向が多い気がします。ただ、BIG4同様関西では組織がそこまで縦割りになっていないようなので、さまざまな案件に取り組むことができるようです。
③次回予告
本編をお読みいただきありがとうございました。
シリーズ第1弾となる本記事は、プロフェッショナルファームのキャリアについて取り上げました。
監査法人に在籍されている方には、同じプロフェッショナルファームということもありイメージが湧きやすい部分もある一方で、税理士法人・会計事務所、コンサルティング会社・FASなど馴染みのないキャリアについては知らないこともあったかと思います。
次回は、組織内会計士のキャリア等を取り上げる予定です。
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長年会計士のキャリアに携わってきた広瀬と、ベンチャーを経て独立した会計士の梶原、上場会社で経理を経験した後に独立した岩橋など、実体験に基づいたアドバイスが可能である点が私達の強みです。
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