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公開日:2023/07/17

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関西の公認会計士キャリアの考え方(組織内会計士編)

会計士には多様なキャリアの選択肢がある中で、「どのようにキャリアを選べば良いのかわからない」「そもそも選択肢が多すぎて全体像が把握できてない」などのお声を多くいただきます。

さらに、関西でのキャリアについてフォーカスされた情報は少ないように思います。

本シリーズでは、CPASSメンバーであり会計士の転職支援歴17年のキャリアアドバイザー広瀬に、同じくCPASSメンバーで会計士の梶原、CPA会計学院でチューターを務める会計士試験合格者の柳本が、会計士のキャリアについて根掘り葉掘りお聞きした対談の様子をお届けする記事です。

本記事はその第2弾として、「組織内会計士」について取り上げます。

(第1弾であるプロフェッショナルファーム編はこちら

現在キャリアの選択に悩んでいる方や、今後のキャリアについて基礎的な知識を身につけたい方の参考になりますと幸いです!


INDEX

①対談者プロフィール

②会計士のキャリアの選択肢

       【組織内会計士】

       1.大手上場企業

       2.ベンチャー・スタートアップ

       3.外資系企業

③次回予告


①対談者プロフィール

広瀬 貴司

CPAキャリアサポート株式会社

株式会社伊藤園、株式会社MS-Japan、株式会社マイナビを経て現在に至る。

公認会計士のキャリア支援歴15年以上、通算で4,000名以上の公認会計士の転職相談に対応。東京・大阪いずれでも転職相談経験があり、マーケットの相違点についても精通。趣味は、投資とスポーツ観戦。

梶原大樹

株式会社LapisNova 代表取締役/公認会計士・税理士

大学在学中の2012年に公認会計士試験合格。有限責任監査法人トーマツ大阪事務所、スタートアップでの管理部長・CFOを経て、2021年に独立。現在は、社外CFO、IPO支援、バックオフィス構築などを行う。趣味は、サウナとゲーム。

柳本篤生

CPA会計学院大阪梅田校チューター

大学在学中の2022年に公認会計士試験合格。東京のBIG4監査法人に就職予定。趣味は読書とボルダリング。


②公認会計士のキャリアの選択肢

【組織内会計士】

1.大手上場企業

(梶原)

組織内会計士として一番最初に思い浮かぶのが、大手上場企業だと思います。特に、監査法人での経験が活きる経理職に就く方が多いと思います。
関西ならではの傾向や特徴などもあれば、合わせて教えてください。

(広瀬)
会計基準の複雑化や高度化に伴って、大手上場企業での会計士のニーズは高まっているように思います。組織内会計士がいることで、テクニカルな内容を社内で深く検討ができるということもありますが、監査法人とコミュニケーションする場面において、監査人としての知見も重宝されます。
その上、上場企業では労働環境や福利厚生が整備されているため、コツコツと安定したキャリアを積みたい方にとっては合っている環境だと思います。

関西の傾向や特徴としては、関東に比べて監査法人から大手上場企業へ転職を希望する方の割合が多いと感じています。関西は特に優良な上場企業が比較的多いので、その点でも大手上場企業のキャリアも良いのかなと思います。

(梶原)

関東に比べて関西の方が、監査法人から大手上場企業への転職希望者が多いというのは、広瀬さんが関西と関東の両方でキャリア支援のご経験があるからこそ見えているものですよね。

(柳本)

経理以外の財務や経営企画は監査法人でプラスアルファの経験が求められると思うのですが、具体的にはどういう経験を積んでいると良いのでしょうか?

(梶原)

経理では決算書を作成することがメインなので監査の経験は十分に活かせると思います。

一方で、財務は資金管理などを担当し、経営企画であれば予算作成や会社によってはM&A業務など将来のことを検討する業務を担当することになると思います。これらの業務では、ファイナンスの知見であったり財務モデルを作成するスキルがプラスアルファの経験として求められるので、FASなどで経験を積んでおくと良いかもしれないですね。企業によっては、特にこれらの知見やスキルを必須としていない場合もあるかもしれませんが、業務をするうえではないに越したことはないと思います。

(柳本)

上場企業に転職する際の監査法人におけるポジションに関しての質問なのですが、最低でもマネージャーとしてそれなりの規模のチームを指揮する立場にいた経験をしたうえで、転職しないといけないでしょうか。転職に適したタイミングはあるのでしょうか。

(広瀬)

上場企業から求められるのはシニアでインチャージ経験がある人ですね。なので、最低でもマネージャーの経験が必要ということはないです。

スタッフではなくシニアが求められるのは、外部とのやりとりや組織マネジメントを経験していることが理由として挙げられます。そして、マネージャーではなくシニアが求められるのは、年収面ですね。監査法人と事業会社では企業文化は大きく異なり、監査法人のマネージャークラスの年収ポジションを用意するのは大手上場会社でも難しいため、そうなると組織として受け皿を用意しやすいシニアの方が転職機会は多いと思います。

(柳本)

経験を積んで役職についてから転職する方が選択肢は広くなるものと思っていましたが、今のお話を踏まえるとそんなに単純なものではなく、キャリアによってはタイミングも重要というのは新しい発見でした。

(広瀬)

監査法人からの転職タイミングはポイントの一つかもしれないですね。「もう自分は監査ではなく、事業会社に行って一般的な働き方をしたい」というお考えがあれば、若くて、年収が大きく下がらないタイミングで転職を選んでも良いと思います。

(梶原)

昨今の監査法人では、マネージャークラスは結構ハードに働いていると聞きますが、監査法人での年収から大幅に下げてでも、大手上場企業に行きたいという人はどれくらいいらっしゃるものでしょうか。

(広瀬)

年収を下げたくない人が大半ですが、福利厚生や退職金の面、残業時間が減ることなどを考慮して、将来のことを考えて年収が一時的に下がっても納得して転職する方も多いです。


2.ベンチャー・スタートアップ

(広瀬)

これは梶原さんの独壇場ですね(笑)

(梶原)

独壇場ということもないと思いますが(笑)。

会計士がベンチャー・スタートアップ(以下、「ベンチャー」)で働く場合には、CFO、管理部長、経理マネージャーなどのポジションで働く方が多いと思います。そして、会社のフェーズとしては、VC等からの資金調達を数度行ってIPOに向けて本格的に動き出している会社であることが多いです。

ベンチャーは大企業と違い、仕組みやルールが出来上がっていないことの方が多いです。そのため、仕組み作りや仕組みがないことにより出てきた課題を拾うことも時には必要ですので、「私は経理だから」「私は会計士だから」というスタンスでは正直難しいと思います。

泥臭いことも厭わない、当事者意識を持って業務や課題に取り組む姿勢が必要だと思います。

(広瀬)

自走できることが重要ということですね。受け身で仕事をこなしている人には合わない可能性が高いですね。とはいえ、監査法人だけの経験だと未経験の業務ばかりだと思いますが、梶原さんご自身はどのように対応していったのでしょうか?

(梶原)

私は管理部長のポジションで転職しましたので、まずは書籍でバックオフィス業務全般の勉強をしました。先程のお話しにも通じますが、バックオフィス以外の業務や課題にも対応する必要があったので、ファイナンス・ビジネス・マーケティング・ソフトウェア開発などについてもアンテナを張って日々勉強していました。

今は、noteやウェビナーなどでノウハウや成功談・失敗談をシェアされている方も多いので、自発的に学習する分には良い環境になってきたなと感じています。少し宣伝っぽくなってしまいますが、CPA-Learningでは経理や労務をはじめとしたバックオフィス実務や、ファイナンスなども無料で学習できるので、自分がベンチャーにいる時に欲しかったと本気で思っています(笑)。

とは言っても、全てを完璧に勉強してから実務をやるわけにはいきません。バックオフィス業務については、経理・財務・人事・労務・法務・総務と全般的にやっていましたが、専門的な内容で困ることがあった際には、人事・労務は顧問社労士に、法務は顧問弁護士に確認しながら業務をしていました。

ただ、何かある都度聞いて進める訳にはいかないので、どれくらいの時期に何をやらないといけないのか、どういう事象があったら誰に相談しないといけないのかなどを予め把握して対応するようにしていました。

(広瀬)

なるほど。少し話しは変わりますが、梶原さんはどうしてベンチャーに転職されたのでしょうか?収入面など不安はなかったでしょうか?

(梶原)

監査法人で仕事へのやりがいが迷子になっていた時に、ベンチャーのビジョン、ミッション、バリューを大事にした働き方に惹かれたことがきっかけです。あとは、経営者の側で働いてみたいという想いがあったので、ベンチャーはまさにそれを実現できる環境だと思い転職しました。

実際に、ビジョン、ミッション、バリューがマッチしていると感じたベンチャーに入ることができ、自分もマネジメントメンバーの一員として働くことができたので、幸運にも転職前の希望が叶い、毎日楽しく働いていました。監査法人以上にハードワークしていましたが(笑)。

収入面については、正直にお話しすると監査法人時代からはかなり下がることになりました。ただ、生活できない水準ではなかったので、監査法人に残り続けて選択肢がなくなるよりも良いかなと思い転職しました。

今の転職市場を見ていると、関西も東京とまでは言わないものの会計士のベンチャー転職時の年収水準は上がっている印象ですので、監査法人のスタッフ〜シニアスタッフであれば全然チャレンジできると思います。

(広瀬)

転職市場のお話しがでましたが、東京と関西のベンチャーを比較すると、関西は圧倒的に数が少ないですよね。2022年のIPOの数を見ても91社のうち68社が東京で、関西は5社です。関西において組織内会計士を目指すとしても、大手上場企業などが大半で、ベンチャーという選択肢が少ないのが現状であり、関西の弱みに感じますね。

(柳本)

ベンチャーの中で働くにあたって役に立った監査法人での経験はありますか。個人的な想像だと、監査法人のクライアントは上場企業なので出来上がった内部統制であったり、効率的な業務プロセスを観察した経験は強みかなと思うんですけど。

(梶原)

それはあると思いますね。監査業務をしている時にはあまり意識していませんでしたが、業務プロセスなどの仕組みをゼロから作るとなると、想像以上に大変だと実感しました。監査業務では、出来上がった業務プロセスや内部統制を検証していましたが、実際に仕組みを作るとなると運用を上手く回すことも含めて想像以上の労力が必要でした。

それ以外に監査法人での経験が活きた場面としては、監査法人から監査を受けるときでした。監査手続きで要求される資料がわかっていましたし、財務諸表分析の結果を監査法人に共有することで、監査手続の効率化に繋がったと監査法人からも評価いただきました。

(柳本)

監査法人からベンチャーに行くことを考えているのであれば、色々な企業を見たり、IPO支援業務を経験するのも重要でしょうか。

(梶原)

そうですね、もしベンチャーに行きたいと思ってるなら、IPO支援の経験はかなり活きると思います。もしCFOを目指しているのであれば、FASやコンサルなどの経験も活きると思います。ただ、このベンチャーにどうしても行きたいという出会いがあったら、勢いで飛び込んでみるのも大事だと思います。先程広瀬さんがお話しされていた通り、関西は特にベンチャーの数が少ないので、タイミングは非常に重要だと思います。


3.外資系企業

(梶原)

外資系企業は、本社が海外にあって、日本に現地法人として設立されている会社のことですね。ビジネスレベルの英語力はやはり必須なのでしょうか。また、外資系企業の会社自体が少ないと思いますが、関西ではどのような会社があるのでしょうか。

(広瀬)

関西の外資系企業で有名なのは、P&Gやネスレなどですね。両社とも本社は神戸です。

外資系企業の業務では、英文の契約書や請求書を読むことも多く、業務に支障のないレベルの英語力は必要になると思います。特に、CFO、経営企画、コントローラーなどをしたいとなると英語は必須になると思います。

また、会計基準はIFRSや米国会計基準などを採用していることが大半なので、これらの経験も重要になると思います。

これらの条件を満たす経験やスキルがあれば、年収を下げることなく監査法人から転職できる可能性は高まります。

ただ、仕事の能力を厳しくジャッジされる傾向にあるので、年収が良いという理由だけで選ぶとミスマッチが起きる可能性があります。

(梶原)

英語力やIFRS/US-GAAPの理解だけでなく、日系企業と外資系企業では組織文化も異なりそうですね。この辺りを理解していないと、思いもよらぬところでミスマッチが起きそうですね。

(広瀬)

そうですね。ワーク・ライフ・バランスを求めて大企業に転職する方も多いのですが、日系企業と外資系企業では様々な点で異なりますね。

日系の大手企業は、繁忙期は残業があると思いますが、十分な人員確保と人員配置がなされていれば、ワーク・ライフ・バランスがとれるかと思います。

外資系企業では、「残業している=時間内に仕事を処理できない能力の低い人」とみなされる傾向にあります。そのため、外資系企業は残業が少なく、休日はしっかり休めることが多いです。ただ、人件費に対して合理的であるため、必要最低限の人員で業務を回していることが多く一人あたりの業務量は、日系企業に比べて多くなる可能性は多いと思います。

さらに、本国との時差がある場合には、オンラインミーティングが深夜や早朝に行われることもあります。慢性的な残業は少ないかもしれませんが、こうした特徴には注意が必要です。


③次回予告

本編をお読みいただきありがとうございました。

シリーズ第2弾となる本記事は、組織内会計士のキャリアについて取り上げました。

監査法人に在籍されている方には、事業会社への転職はイメージが湧きにくい部分もあると思います。それゆえに不安を覚える方も多いと思いますが、監査法人で培った監査業務の経験が全く無駄になることはありませんし、会計士試験に合格できるだけの素養があれば、諦めなければどんな環境でも活躍できると思いますので、是非興味がある領域にはチャレンジしていただきたいと思います。

次回は、キャリアの考え方や独立会計士について取り上げる予定です。

また、CPASS関西では随時キャリア相談を受付けております。

長年会計士のキャリアに携わってきた広瀬と、ベンチャーを経て独立した会計士の梶原、上場会社で経理を経験した後に独立した岩橋など、実体験に基づいたアドバイスが可能である点が私達の強みです。

自己分析のサポートや、壁打ちだけも可能ですのでお気軽にご相談ください。

キャリア相談は下記よりお申し込みください。