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公開日:2025/09/26

  • 監査役

大杉公認会計士事務所/大杉 泉

  • #1児の母
  • #40代
  • #放送大学出身
  • #神奈川県出身
CAREER HISTORY

     

    商業高校卒業後、税理士から会計士志望への転身

    ――大杉さんは商業高校卒とのことですが、かなり早い段階から将来は会計の道へ進みたいと考えていらっしゃったのですか。

    横浜市立横浜商業高校(Y校)への入学を決めたのは、偶然遊びに行った文化祭の雰囲気が良かったからという単純な動機です(笑)そのため、中学生の頃から簿記に特別な興味があったわけではなかったのですが、幸いなことに商業高校で簿記を習い始めたら“一生簿記をやっていきたい”と思うほど簿記に魅了されてしまいました

     

    ――卒業後は、専門学校に入学されていますが、当初は(会計士ではなく)税理士コースを選択されていらっしゃいますね。

    はい。上述したとおり、簿記の虜になっていたことから、簿記を活かした仕事がしたいと思っており、選択肢として思い浮かんだのが「会計士」「税理士」「会社の経理」でした。この点、「会社の経理」は就職氷河期の時代で雇用が不安定だったこと、「会計士」は当時旧試験制度の時代で学歴要件があり、その時点で、商業高校卒で大学へ進学する方がマイノリティだった環境に身を置いていた当時の私にとっては雲の上の存在に思えていたこと、そしてほんの少し学歴社会に対するアンチテーゼのような気持ちや、学費や体力の面から最短で資格を取りたいという事情もあり、最終的に大原簿記専門学校(税理士コース)へ入学しました。

     

    ――そこから、どのような背景で会計士受験生に転身されたのでしょうか。

    専門学校入学後、1年生で日商簿記1級合格、2年生の夏には税理士の簿記の簿記論・財務諸表論に合格する等、最初の方は順調な滑り出しでした。しかし、消費税や相続税の税法の勉強が本格化した途端にスランプに陥ってしまいました。“得意の簿記は活かしたいが、避けては通れない税法との相性が悪い”という絶望的な状況を打破するキッカケになったのは専門学校に通っていた友人が放った一言でした。

    会計士の試験制度が変わったらしいよ。そんなに悩んでいるなら転身すれば。

    気になって調べてみると、2006年度からの新試験制度で学歴要件が無くなっていたので商業高校卒の私でも受験資格があることが分かりました。会計士試験であれば科目の配分も会計の比重が高く税務は相対的に低いため、一念発起して会計士受験生へ転身を決断しました。いつも嫌味しか言ってこなかった友人ですが、今となっては大変感謝しています(笑)

     

    ――会計士受験生に転身されてからの勉強は順調でしたか。

    財務会計のアドバンテージもあり、2007年には短答式試験に合格しました。ただ、短答式試験合格後に全く勉強に身が入らない時期が数ヶ月続きました。今だから話せますが、同年に実施された論文式試験は会場には行ったものの途中退席してしまうくらい精神的に参っていました。スランプの原因としては、そもそも会計士になぜなりたいのかという根幹が揺らいだことにあります。このモヤモヤを解消せず勉強を続けたら将来立ち戻れなくなるのではないか、という不安に苛まれました。

    そんな状況を打破するようになった要因は2つあります。1つは、そもそも簿記が好きという純粋な気持ち、そして、もう1つは知的障害がある叔父の存在でした。実は、当時、喫茶店で私も叔父もアルバイトをしていました。別の喫茶店なので全く同じ条件ではないものの、それでも大差ない仕事内容にも関わらず、健常者である私と障がい者である叔父の時給があまりに違ったのです。その現実に愕然とし、障がい者雇用の現状や作業所が抱える課題など独自にリサーチを行いました。この行動を端緒に、いつか自分が会計士に合格した際には、皆が憧れるような有名企業ではなく、障がいのある方などの社会的な支援が必要な方をビジネスの力でサポートできる人材になりたいと思うようになりました。そこで、再び会計士受験生として頑張る覚悟もでき、翌年2008年の論文式試験に合格しました

    また、裏話的になりますが、会計士試験に合格後、監査法人で激務の日々を送る中で、どうしても上述したような初心は忘れかけることもありましたが、それでも頭の片隅には残っていたところ、社会福祉法人の監事のお話であったり、約20年経った今頃になって、障害のある人の作るアートのIPビジネスを行っているベンチャー企業から監査役のオファーをいただいたりして、不思議な運命を感じているところです。

     

    ――見事な伏線回収ですね…!やや話は脱線しますが、会計士試験合格後に放送大学に入学された背景はどういったものだったのでしょうか。

    先ほどお話したとおり、私は、新試験制度になったことで大学に進学しないまま会計士になることができました。監査法人入社後は誰も学歴の話をしていなかったので、大学に進学していないことで、監査法人内で不利益を被ったと感じる場面は私の場合はありませんでした。他方で、業界全体で見れば新試験制度になったことで会計士の質が低下したと主張される方も中にはいらっしゃいました。その主張を目の当たりにした際はショックでしたし、今後、登録要件等で学歴要件が課されるのではないかという不安があったのも事実です。

    2013年に第一子を出産し、当初は子育ての勉強をしようと思って情報収集を始めたものの、巷にはいいかげんな情報も溢れており自分で知識がないと情報の適切な取捨選択ができないと実感したことや、働き方もすでに常勤監査役で、前職時代と比較して責任は重くなったものの、時間の融通はききやすい状況だったこともあり、2015年に入学することにしました。

     

    ②監査法人勤務を経て、20代(上場企業最年少クラス)での監査役就任

    ――会計士試験合格後の話に時間軸をずらします。合格後はあずさ監査法人(横浜事務所)に入所されていらっしゃいます。今でこそベンチャー企業の監査役としての地位を確立していらっしゃいますが、監査法人時代からベンチャー企業をご担当されていたのでしょうか。

    いえ、全くそんなことはないです。IPO準備会社は1社少し関与した程度で、基本的には神奈川県を地場とする鉄道会社、ゲームソフト開発会社等の会計監査に関与していました。

     

    ――入所当時は中長期的なキャリアビジョンをどこまで描かれていらっしゃいましたか。

    入所した時点では、監査法人にいつまで勤務するかなど、将来に対して明確なビジョンを持っていた訳ではありませんでした。他方で、20代後半で結婚・出産とプライベートでの変化がありましたが、当時同じ監査法人で働かれるワーキングマザーの先輩方は私の目からはスーパーウーマンに思え、同じような働き方は自分には難しいだろうと思っていました

     

    ――ご出産された翌年に株式会社イグニス(当時東証マザーズ上場)の常勤監査役に就任されていらっしゃいます。就任された背景や、20代で役員に就任することについて不安はなかったのか気になります。

    監査役就任の背景は、出産後に転職を考えていた矢先、友人に声をかけられたのがきっかけです。もちろん責任ある立場であり私で大丈夫かなという不安はありましたが、周りにも監査役経験者がいたこともあり、私自身も一生懸命努力しようと覚悟を決めて就任しました。就任後は、監査役に関する書籍を片っ端から購入して勉強したり、日本監査役協会に入って人脈を広げ先輩監査役からの助言を頂きながら知識をつけていきました。

     

    ――監査役就任時は会社も上場直後ということで、監査法人の雰囲気とも大きく異なっていたのではないかと推察しますが、カルチャーショックはありましたか。

    1番感じたのは、社員の皆さんがかなり能動的に学ばれている、ということでした。監査法人時代は研修も指定されていたものを受講しており受け身でも情報が入ってくる環境でしたが、イグニスの皆さんは、自主的に業務外の時間を使って勉強会を開催していたのが印象的でしたね。

    そのような感想を代表取締役に率直にお話したところ、「大杉さん、ベンチャー企業はマグロの群れと一緒です。止まったら終わりなんです。」と返されました。その返答を聞き、私自身も、“私の成長が止まるとこの集団に悪影響を及ぼしてしまう、マグロの一員として泳ぎつづけなければならない”と身が引き締まる思いがしましたね(笑)気が付けば、監査役歴も10年以上となり、複数社のベンチャー企業に関与してきましたが、このマグロ精神はどのベンチャー企業にも共通していると感じます。

     

    ③監査役特化のサービスで独自のキャリアを開拓

    ――2017年には、上場前のRetty株式会社と株式会社インティメート・マージャーに社外取締役(監査等委員)や監査役としてジョインされていらっしゃいます。その後、2社とも上場されるという快挙を遂げていらっしゃいますが、会社を選ぶ際に重視している点はありますか。

    事業内容については、監査でも様々な業種のクライアントを担当していたこともあり、聞いても全くピンとこないものでない限り絞ってはおりません。それよりは社長の人柄や会社のカルチャーや働かれている方とのフィット感を大切にしています。また、社長が上場をゴールではなく、中長期目線で会社を成長させる意欲を持っているかも非常に重要だと思います

     

    ――同じ年に「監査役ニュース」というブログも開始されていらっしゃいます。毎日朝6時投稿を数年続けていらっしゃることに驚きました。

    ロールモデルは会計士の大先輩である武田雄治先生です。もともと武田先生が先んじて「CFOのための最新情報」というブログを開設されており、私も愛読しておりました。ある時、武田先生が東京でブログに特化したお話をされる研修をされるとのことで参加したのですが、その時の熱量やパワーに感化され、私自身もやってみたいと思って開始しました。

    基本的には上手くいっている人の要素をうまく取り入れるのがコツとそのとき習ったので、武田先生のブログを参考にしつつ、私自身の経験から監査役を対象としたブログで開設すると決めました。武田先生のブログのターゲットはCFOであり、速報性重視のため不定期更新、かつ、1日に連続投稿されることもあります。他方で、私の場合はターゲット層が監査役のため、毎日定刻に情報を着実に届ける方がニーズがあるのではないかと思い、毎日朝6時投稿としており、そこは差別化を図っているつもりです(笑)。今では武田先生も認知してくださっているようで、大変嬉しく思っています。

    飽き性なので3日坊主で終わるかもしれないと思っていましたが、徐々に認知されるようになり、PV数が増え始めるようになると、急に辞めたら恥ずかしいなというプレッシャーもあり今日まで続いている状況です。毎日ネタを探して、調べて書くというのは大変ですが、良いインプットとアウトプットの場にはなっており、確実にスキルアップにつながっていると実感します。

     

    ――2018年に事務所を開業されていらっしゃいます。会計士は一般的に税務や会計コンサルを事業サービスにするイメージでしたが、大杉さんの場合は監査役等支援業務をされているのがユニークですね。

    そうですね。私自身の実体験からも、監査役が実施すべきプラクティスがあまり世に出回っていないこと、そもそも監査役等向けの支援というものが皆無であることに気づき、それならば第一人者になろうと自分の事務所を開業し監査役等の支援を行うことにしました

    このようなサービスは日本で恐らく私しかやっていないという点が最大のモチベーションとなっているところもありますが、他方で、各社の監査役等が仕事を全うし企業不祥事を減らすことは重要だと思いますので同業がもっと増えてほしい思いもあります。

    ④今後の夢やビジョン

    ――20代で監査役に就任後、上場も2社経験され、さまざまなスタートアップ企業から引く手あまたな大杉さんだと思います。今後も監査役としてのキャリアを究められる予定ですか。

    私の場合は、監査役が一番自分のバリューを発揮できると思うので続ける予定ではいます。これまで数社のベンチャー企業や上場間もない企業に監査役として関与しましたが、1社として同じ会社はありません。社長の考えも社風も異なるので、毎回新鮮な発見がありますし、逆に言えば、毎回新しい課題が出るので過去の経験が直接的に活きる場面は意外と少なく、都度全力で戦っています

    他方で、20代で初めて監査役に就任した時と比べて経験値は明らかに上がったので、ベンチャー企業あるあるの落とし穴に対する嗅覚は磨かれてきたとも感じているところです。ありがたいことに書籍出版や日本スタートアップ監査役等協会の理事等、仕事の幅も広がってきています。「監査役といえば大杉さん!」と言っていただけるような存在を目指したいと思っています

     

    ――商業高校の卒業生という点も大杉さんの個性の1つだと思いますが、その点で今後取り組みたいことはありますか。

    実は、かつてインタビュー記事で商業高校出身会計士として掲載していただいたことがありました。その記事を読んでくださったY校出身の会計士の方がご連絡くださり、ちょうど今年(2025年)の1月にY校出身会計士・税理士などのコミュニティを立ち上げたところです。今後は、母校での公認会計士制度説明会を開催したり、他の商業高校出身者も含めたコミュニティ作り等もできればよいな、と構想しているところではあります。

     

    ⑤子育てと育児の両立

    ――子育てと仕事のバランスに悩む場面はありましたか。

    幸いにも子どもは夜泣きも酷くはなく、病気も少なかったので、そこは本当に感謝しています。また、もともと「簿記がすごく得意」というだけで会計士になったこともあり、出世願望があるタイプではないので誰かと比較して落ち込むことはなかったです。

    一方で、監査役は役員であり、仕事に全振りしなければならない瞬間もいつくるか分からないので、それが可能な状態を常に維持していくために、カードを沢山持つことは意識していました。例えば、子供が病気になった時のプランでも病児保育は1か所ではなく複数社登録しておく等のリスクヘッジは重要で、そのために必要な投資はしていました。

     

    ⑥後輩女性会計人材へのメッセージ

    ――最後に、後輩の女性会計士にメッセージをお願いいたします!

    私の場合、これまでのキャリアは、知人からご依頼・ご紹介いただいた案件を精一杯努めたら自然と築かれていたものになります。私自身は、案件を引き受ける上で“女性だから”という観点はあまり意識したことはなく、自分が“やりたい!”と思えるかどうかを重視してきました。もちろん仕事のすべてをやりたいことだけで固めることは難しいとは思いますが、それでも幸いにも会計士は選択肢を広く持てるのが強みであり、常識に囚われすぎずに是非色々チャレンジしていただければと思います。

    インタビュー写真 大杉様

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    スーツ。40歳の節目の記念に、最近フルオーダースーツを作りました(とてもおすすめです)。

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    カジュアルゲーム、漫画。単純なゲームが好きで、色々頭の整理をしています。やる気が出るような漫画も大好きです。

    プライベート 

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    書道。もともと小学生の頃習っていたのですが、子どもが習い始めたタイミングで再開しました。先日雅号もいただきました。

    この記事を書いた人

    2019年会計士試験合格後、監査法人で監査・アドバイザリー業務に従事。2023年よりCPASSに参画し、女性会計人材向けのイベント企画・運営、CPASS for Womanのディレクションを中心に担当。山口県出身。女性や地方勢に向けて会計士の魅力をPRしていきたいです!